骨品制
骨品制は、新羅で発達した世襲的な身分等級制度であり、王位継承の資格から官職昇進、服飾や住宅規模にいたるまで社会秩序の基準を定めた制度である。6世紀から7世紀にかけて制度化が進み、統一新羅期を通じて支配層編成の根幹として機能した。上層には「聖骨」「真骨」が位置し、その下に「六頭品」から「一頭品」までの頭品階層が配され、各層に達し得る最高官等や礼制上の許容範囲が明確に線引きされた点に特色がある。制度は貴族間の通婚や門地観念と密接に連動し、社会流動を抑制しつつ王権と貴族勢力の均衡を調整する枠組みとして作用した。
成立と背景
新羅初期には王統が交替する過程で複数の有力氏族が台頭し、血統の尊卑をより厳格に峻別する必要が生じた。こうして形成された骨品制は、部族連合的段階から官僚制国家への移行に伴い、王権の正統性と貴族秩序の安定を同時に確保する道具立てとなった。儒教的礼制や法思想の受容、婚姻圏の厳格な管理、氏族間の序列化などが制度の基盤を支え、門地の純正性が政治参加の資格を規定する構造が確立したのである。
身分区分の構造
- 聖骨(せいこつ):王家の血統純度が最上とみなされ、原則として王位継承資格を独占した層である。女帝の即位例を含むが、後に断絶し実質的に消滅した。
- 真骨(しんこつ):聖骨に次ぐ最上位貴族層で、王位継承は聖骨断絶後にここへ移行した。中央官僚機構の上層を占め、政策決定に強大な発言力を持った。
- 頭品(とうひん)六〜一:いわゆる「六頭品」を頂点とする六段階の世襲身分である。各頭品ごとに到達できる最高官等や礼制上の許容範囲(衣服・乗具・住宅規模など)が細かく規定された。
政治制度との連動
骨品制は、官僚登用と昇進の上限設定を通じて国家運営に直接関与した。真骨は最高位の中枢官職に就任でき、六頭品はそれに次ぐ高位まで、五頭品以下は中下位に制限されるといった形で、身分と官等の上限が連動した。これにより、能力主義的要素が一部に存在しても、門地による政治参加の格差は制度的に固定化されたのである。
王位継承への影響
王位は本来聖骨に限定されたが、聖骨系が断絶すると真骨からの即位へと原則が転換した。女帝の即位は聖骨優位の時期に限られ、断絶後は真骨王権の時代が到来した。これは王位継承ルールを通じて、貴族連合体的な権力分配から、真骨を中心とする統治ブロックへの再編を促し、国家統合の一体感を強化する機能を果たしたと解される。
礼制・生活規制
骨品制の射程は官職だけにとどまらない。衣服の色や素材、冠帽や佩飾、車馬の使用、住宅の規模や装飾、葬送儀礼など、細部にわたる生活規制が階層ごとに定められた。これにより、視覚的・儀礼的に身分差が社会空間へ刻印され、秩序の可視化と内面化が持続的に図られたのである。
軍事・社交との関係
青年集団の活動や武芸・教養の習得は、上層貴族の人的ネットワーク形成に資した。身分に応じた同行者数や装束の規範は、軍事的動員や儀礼的行列の場でも差異化を生み、政治秩序の象徴的演出として機能した。社交空間における序列の維持は、婚姻戦略や派閥均衡の形成に波及し、貴族政治の基礎体力を支えた。
統一と社会流動の制約
7世紀後半の統一達成は官僚機構の拡大を促したが、骨品制の上限規制は依然として強固であった。地方豪族や新興勢力が中央へ参入しても、昇進の天井は低く、上層部は真骨が占め続けた。才幹ある人物の登用があっても、門地による格差の壁は厚く、制度は長期的に社会流動を抑制したといえる。
制度の硬直化と動揺
長期にわたる身分固定は、財政難や地方離反が深刻化する局面で制度硬直として現れた。9世紀には地方での自立化や反乱が生じ、中央の規制は実効性を低下させた。とはいえ、骨品制は終末期まで統治の「形式」を提供し、既得権を基盤にした政治的駆動力の源泉であり続けた。
比較史的視角
東アジアの他地域では科挙や門閥貴族制など多様なエリート編成が見られるが、新羅では血統純度を核にした骨品制が制度の中心に据えられた。これは門地観念を行政・礼制・生活規範へ重層的に反映させる点で特異であり、制度化された血統主義が国家形成の運動を牽引した事例として注目される。制度はカースト的と形容されることもあるが、宗教的職分の固定とは別様で、政治的資格の秩序化に主眼が置かれていた点に特徴がある。
後世への影響
骨品制は形式としては中世の変動の中で解体へ向かったが、門地と礼制を通じて身分的優越を可視化する発想は、その後の支配エリート像の形成に影響を残した。地方社会の有力層が中央秩序へ編入される際の「家格」重視の態度、儀礼による位階表示の重みなど、文化的記憶として継承された要素は少なくない。
史料と研究
新羅史の基礎史料として『三国史記』『三国遺事』があり、そこから身分秩序・王位継承・官等制度に関わる叙述を読み解くことができる。考古資料や金石文は礼制や装飾文化の具体像を補い、近現代の歴史学・法制史・社会史の研究は、骨品制が国家形成とエリート再編の過程で果たした役割を多角的に再評価している。制度の柔軟性と硬直性、政治統合と社会統制の連動関係を検証することで、新羅国家の持続と動揺のメカニズムがより精緻に理解される。