選挙
選挙とは、共同体や国家において代表者・執行者・政策選好を正当化し、権力の委任と統制を両立させるための制度である。近代以降の代議制民主主義では、主権者である市民が定期的に投票し、政権交代可能性を担保する仕組みが中核となる。選挙は単なる投票行為ではなく、候補者選定、選挙区の設計、投票方式、結果配分、監視・監査、公職選挙法等の法規制、資金・メディア・世論との相互作用など複合的な要素から構成される。自由・公正・競争・定期性・包括性といった原則を満たすほど、統治の正統性は高まり、逆に買収や威圧、不正集計、恣意的区割りがあれば、政治的信頼や参加意欲は損なわれる。
定義と機能
選挙の第一の機能は代表の選出である。第二に、国民から権力を委任する契機を明確化し、任期や責任追及のルールを通じて統治を可視化する。第三に、政策選好の集約装置として、争点を提示し、対立を制度内に包摂する役割を担う。広い有権者層を含むほど、社会的多様性が議会に反映されうるが、制度設計いかんで結果の比例性や安定性は大きく変化する。
歴史的展開
古代から近世
古代アテナイでは多くの官職が抽選であったが、一部に投票手続が用いられた。ローマでは民会が官職者を選出したが、買収や後援関係が強く作用した。中世ヨーロッパの都市・ギルド・大学や、教皇を選ぶコンクラーベなど、限定的団体内の選挙が広がり、近世のイギリスでは腐敗選挙区の問題が顕在化した。
近代の普遍化
フランス革命以降、国民主権の理念が浸透し、財産制限が後退して普通選挙が拡大した。20世紀には女性参政権が世界的に実現し、脱植民地化とともに独立国家の憲法に自由で公正な選挙が明記されるようになった。
制度の主要要素
- 選挙権・被選挙権:年齢、国籍、居住要件、欠格条項の設計によって包摂性が左右される。
- 選挙区割り:単一(小)か複数(大)、全国区か地域区かで代表の性格が変わる。
- 投票方式:単記非移譲式、決選投票、順位付け移譲など、票から議席への写像が異なる。
- 配分方式:ドント式、サン=ラグ方式等により比例性・大政党優遇度が調整される。
代表制の設計と帰結
小選挙区制は二大政党化や政権の安定を促しやすい一方、死票の多さや少数派の過小代表を招きうる。比例代表制は多党化と代表性を高めるが、連立形成の複雑化を伴う。並立制・併用制などの混合型は、安定と比例性の折衷を狙う設計である。デュヴェルジェの法則は制度が政党数に与える圧力を示し、政党戦略(候補擁立、提携、争点設定)と相互作用する。
公正を確保する仕組み
- 秘密投票:威圧や買収の検証可能性を下げ、自由意思を保護する。
- 選挙管理機関:中立性・専門性・継続性を備えた組織が登録、周知、投票、開票、監査を統括する。
- 監視と救済:立会人、再点検、司法審査、無効訴訟等により違法行為を是正する。
- 技術と記録:投票箱封印、紙票保存、電子投票では監査可能な証跡の確保が要諦である。
政治参加とキャンペーン
選挙運動は有権者登録の促進、戸別訪問、討論、集会、広告、SNS等を通じて争点を可視化する。資金規制は拠出上限、開示義務、企業・団体寄附の扱いなどで公平性を担保する。世論調査や出口調査は情報提供の一方、バンドワゴン効果や戦略投票を誘発しうるため、報道倫理や公職選挙法上のルールが重要となる。
不公正・違法行為の類型
- 買収・供応・威圧:投票の自由を侵害する典型で、刑罰と監視の強化が必要である。
- 不正集計・投票箱すり替え:手続の透明化、複線的確認、公開プロトコルで抑止する。
- ゲリマンダー:恣意的区割りにより特定勢力を優遇する行為で、独立機関と客観指標で抑制する。
- 参加阻害:投票所の不足、過度の身分確認、期日前の制限等は、実質的な選挙権の侵害につながる。
日本の選挙の概観
日本の国政では、衆議院が小選挙区比例代表並立制、参議院が選挙区と比例代表の併存である。公職選挙法は運動の期間・方法、供託金、文書図画、インターネット活用等を定める。18歳への選挙権年齢引下げ、期日前投票の拡充、不在者投票の制度化は参加機会を広げた。一方、人口移動と区割りの乖離、投票価値の不平等、供託金水準の高さなど課題も指摘される。地方では知事・市町村長と議会の選挙、住民投票が自治を支える。
関連概念と法制度との接点
選挙は民主主義、法の支配、言論・結社の自由、地方自治、政党政治、国民投票や住民投票などの直接参加手続と連関する。制度設計は、包摂性(誰が投票できるか)、競争性(誰が立候補できるか)、比例性(票がどれだけ議席に反映されるか)、説明責任(当選後の統制)を同時に満たすことが要請される。比較政治の知見は、社会の多様性と統治の安定性の均衡点を探るうえで不可欠であり、各国の法制度と運用の精査が実践的課題となる。