新疆
新疆は中国西端に位置し、天山・アルタイ・崑崙の大山脈と、タリム盆地・ジュンガル盆地という二大内陸盆地からなる広大な地域である。古来、オアシス都市が点在し、東西交易の結節点として発展した。楼蘭・クチャ・ホータン・カシュガルなどの都市は仏教やマニ教、ゾロアスター教、そしてイスラームが交差する宗教の十字路であり、ソグド人やトルコ系遊牧民、モンゴル系諸部、漢人など多様な民族が往来した。中世にはトルコ化とイスラーム化が進み、モンゴル帝国以後はチャガタイ=ウルス、モグーリスターン、ジュンガルなどが支配権を争い、18世紀に清朝が制圧して編入した。清末の混乱と中華民国期を経て、1955年に新疆ウイグル自治区が設置され、現在に至る。
地理と自然環境
地域は大きく天山山脈を境にジュンガル(北西)とタリム(南西)に二分される。タリム盆地中央のタクラマカン砂漠は世界有数の砂砂漠で、その縁辺にオアシスが並ぶ。主要河川はタリム川・ホータン川・ヤルカンド川・カシュガル川、北方ではイリ川やエルティシ川が知られる。気候は内陸性で寒暖差が大きく、降水が乏しいため雪解け水とカレーズ(地下水路)に依存した灌漑農業が形成された。
住民・言語・宗教
住民はウイグル、カザフ、キルギス、タジク、モンゴル、回族、漢族などから成る。ウイグル語はテュルク語派に属し、アラビア文字系表記を用いる。イスラーム(スンナ派)が主流で、史的には仏教・マニ教・景教・ゾロアスター教の遺産も大きい。音楽では「ムカーム」、建築では日乾れんがの城壁都市やモスクが地域文化を象徴する。
古代から中世:オアシス都市と交易
「西域」と呼ばれた時代、新疆のオアシスは東西を結ぶ交易路の要衝であった。漢帝国は張騫の出使以後、匈奴勢力と角逐しながら都護府を設け、以後も前秦・北魏・隋唐が段階的に影響力を及ぼした。唐代には仏教文化が栄え、クチャの仏教芸術やホータンの碧玉交易が著名である。ソグド商人は隊商経営と金融で中継貿易を担い、文化的媒介者として機能した。
トルコ化とイスラーム化
9世紀にウイグル可汗国の一部がタリム盆地へ移動し、後続の高昌回鶻(西ウイグル王国)が成立、ソグド文化と仏教・マニ教を継承した。10~11世紀、カラハン朝が台頭してイスラーム化が進展し、テュルク語の文芸(ユスフ・ハース・ハージブ『福楽の書』など)も花開く。以後、テュルク系の言語・習俗が広域的に定着し、オアシス社会と草原世界が接合された。
モンゴル帝国と後継勢力
13世紀、モンゴル帝国の分割によりチャガタイ=ウルスが成立し、天山以南・以北を含む広域を支配した。14~16世紀にはモグーリスターン・ハン国が天山東西で並立・分裂を繰り返し、17~18世紀にはオイラトのジュンガルが強勢となる。ジュンガルは農耕オアシスと遊牧草原を結ぶ交易を統制したが、清朝の遠征により18世紀中葉に崩壊した。
清朝への編入と「新疆」の名
乾隆帝は1750年代にジュンガル・タリム両域を制圧し、軍政と回部統治を併置した。19世紀にはロシア帝国の進出とイリ条約など国境問題が続き、清は1884年に省制を敷いて「新疆(新しい領域)」の名を正式化した。これにより中央の行政体系に組み込まれ、屯田と移住、交通路の整備が進められた。
近代・現代の行政と社会
清末の動揺を経て中華民国期には複雑な地方政権と対外関係が展開し、1933年と1944年には一時的な政体が樹立された。1949年以後は国家の行政枠に組み込まれ、1955年に新疆ウイグル自治区が成立。生産建設兵団による開墾・基盤整備、オアシス都市の拡張、人口移動が進んだ。今日の新疆は多民族共居と都市・農村の二重構造を特徴とする。
経済と交通
新疆の経済はエネルギー資源(石油・天然ガス・石炭)、綿花・果樹などの農業、近年の製造・新エネルギー関連の集積に支えられる。交通では天山南北を貫く鉄道・高速道路、中央アジアへ伸びるパイプライン・国際鉄路が整備され、国際物流の内陸ハブとしての地位を高めた。カシュガル・ホータン・トルファンなど伝統都市は観光・文化産業の拠点でもある。
文化・都市景観
ウイグルの食文化(ラグメン、ポロ、ナン)、バザールの市、刺繍や木工などの手工業はオアシス都市の生活を彩る。音楽・舞踏の伝統、スーフィー聖地や墓廟、土造の旧市街は、石造や煉瓦造を基調とする華北・西域以東の都市景観とは異なる独自性を示す。書字・言語・宗教施設の多様性は歴史的層の厚さを物語る。
地政学的位置
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、パキスタン、モンゴルなどと国境を接する新疆は、東アジア・南アジア・中央アジアを連結する内陸結節点である。内陸港や保税区の整備により、越境供給網の中継地としての役割を強め、古代以来の隊商路のネットワークが現代的な物流回廊として再解釈されつつある。
用語注
- 「新疆」は清末に省名として定着した行政名称で、「新領域」の意を持つ。
- オアシス都市名は時代・言語で表記差がある(例:ホータン=于闐、クチャ=亀茲、カシュガル=疏勒)。
- 史的区分は研究上の便宜であり、地域ごとに年代・支配者の変化は非同時的である。