戸調式|律令制における戸籍・調の規程詳細

戸調式

戸調式は、古代の律令国家において「戸」(戸籍=住民把握)と「調」(絹・布・特産物などの貢納)に関わる実務手続・帳簿様式・報告期限・検査方法を体系化した「式(しき)」に属する規定を指す用語である。法典としての「律」「令」を運用面から具体化するのが「格式(きゃく・しき)」であり、なかでも戸調式は、戸籍・計帳の作成、調の賦課・収納・輸送に関する細目を定め、国司・郡司・里長の事務手順を統一する役割を担ったと理解される。現存する完本は知られないが、『延喜式』や格類書、古代木簡の記載から、その内容と運用像を復元できる分野である。

律令国家における位置づけ

律令制では、刑罰の「律」、行政・財政の基本規範である「令」に加え、施行細則として「格式」が整えられた。戸調式はこのうち民政・財政の核心に関わり、民部系統の式の下で、戸籍編成・課税区分の判定・調の品目規格・納期・検査の次第などを定めたとみられる。標準化は課税の公平性と徴収の確実性を高め、中央—地方間の照合作業(勘会)を円滑にした。

成立背景

7世紀末から8世紀初頭にかけて大宝・養老令が整備されると、唐令を参照した租庸調制・班田収授法が本格的に導入された。広域国家の下で膨大な帳簿・証憑と公文手続が不可欠となり、国郡里の三層構造で住民を把握しながら、年齢・身分に応じた賦課を実施するために、作成書式と年中行事(年次フロー)を規格化する必要が生じた。こうして戸調式に相当する細則が整い、施行単位・関与官人・提出期限が明文化された。

主な内容(想定される条目)

  • 帳簿様式:戸籍(6年1造)、計帳(年次)、庸調帳、田図・口分田台帳などの体裁・記載順序
  • 課税単位と区分:戸・丁の把握、正丁・次丁・老丁・雑戸などの年齢区分と課役軽重
  • 賦課基準:班田収授法に基づく田地・口分田、戸口数、職掌別の加減算
  • 調の品目・規格:絁・絹・布・綿・特産物(雑調)の規格、計量法、代納の可否
  • 期限と経路:作成・申送の期日、郡から国、国から京の輸送路と保管手続
  • 検査・改替:監査官の勘会、欠減・亡逃の処理、帳簿改替の年次と旧帳の保存

運用の年次フロー

郡里は毎年の計帳で戸口変動を反映し、正丁・次丁などの賦課対象を確定する。国司は郡の庸調帳を取りまとめ、納入・輸送の秩序を維持し、欠納や亡逃(逃亡・浮浪)を台帳上で整理する。中央では勘会により各国の申送数値と実収の整合を確認し、蔵司が調物の受納・保管を行う。戸調式はこの一連の工程で用いる文書書式、割印・封緘、受渡しの証拠化の要件を規定していたと考えられる。

地方官の役割と責任

国司は賦課・倉稲・運脚までの総合管理者であり、郡司は戸口把握と調の実納確保、里長は名寄せ・徴収の末端責任者であった。亡逃・死亡・転出入に伴う名寄調整、田地の耕作状況、未納分の追補など、帳簿の正確性は彼らの考査に直結した。戸調式は違算・虚報防止のための照合手順や、再検査(再点検)の要件も設けたと推測される。

租・庸・調との関係

租は田地に対する稲の賦課、庸は労役の代替としての貢納、調は戸口に応じた絹・布・特産物の納入である。戸調式はその名が示す通り、戸の把握(戸籍・計帳)と調の実務に重心を置くが、実際には租・庸にも連動する。調の規格や代納の扱いは庸との通し勘定に影響し、戸口区分の変更は租の負担配分にも波及した。

史料と伝存の状況

「戸調式」という書名の完存は知られず、条文単位での直接伝来も稀である。しかし、『延喜式』民部式の諸規や格類集、『続日本紀』の記事、さらには地方木簡に見える「調布」「庸布」関連票券から、作成順序・記載要領・受納手続の一端が読み解ける。これら断片的証拠の総合により、戸調式の想定構成が再構築されてきた。

東アジアの文脈

唐代の租庸調制・均田制は日本律令の参照枠であり、唐の賦役令や戸籍令の運用細則は、書式整備・期限管理・監査慣行の点で先行事例となった。戸調式は、こうした東アジア的行政文化の中で、文書と会計を核に課税を制度化する技術の受容と適応を示す。

意義と歴史的影響

戸調式は、人口管理・田地配分・軍役・駅伝体系と連動し、律令国家の財政を支えた。納入物資は中央の収納・再分配を通じて諸官衙の機能維持に資し、同時に帳簿行政の成熟を促した。他方で、蝦夷征討や都城経済の変動、銭貨流通の進展などにより、実務は時代とともに修正を迫られ、式の細目も改易・追加が繰り返されたと考えられる。

用語解説

  • 戸籍:6年ごとに作成される住民台帳。賦課・徴発の根拠。
  • 計帳:毎年作成の名寄帳。年齢・身分・負担の更新を反映。
  • 班田収授法:口分田の給付と返還の制度。租の基礎。
  • 調:戸口に応じる布・絹・特産の貢納。地域性が強い。
  • 正丁・次丁:成人男性の賦課区分。年齢により軽重を定める。

研究上の論点

戸調式が独立した書名を持つ成典であったのか、あるいは民部式等の章条として存在したのかは大きな論点である。条文の再構成には、格勅の断片、令義解・令集解の参照、木簡資料の運用例が不可欠であり、地域差(畿内・辺境)や時期差(奈良・平安前期)も考慮されるべきである。帳簿行政の細密化と現場慣行の乖離、代納・直課の拡大が与えた影響も引き続き検討が必要である。