恐慌
恐慌とは、資本主義経済において生産・流通・金融などが短期間のうちに深刻な混乱に陥る現象である。企業の倒産や銀行の取り付け、失業の急増などを伴い、単なる景気後退よりもはるかに急激かつ全面的な経済危機として現れる。とくに近代以降の資本主義経済では、信用取引や証券市場が発達した結果、過剰な投機や信用膨張が逆転すると、一気に信用収縮が進み恐慌が生じると理解されてきた。
恐慌の基本的な意味
恐慌は、景気循環の局面のうち最も激しい危機局面を指す概念である。拡張局面で生産や投資が拡大し、やがて過剰生産や過剰投機に達すると、何らかの契機をきっかけに株価や地価が急落し、金融市場が混乱する。この段階で企業や銀行の連鎖的破綻が進行し、実体経済にも急速な縮小が波及する。景気後退や「不況」が比較的緩やかな調整過程であるのに対し、恐慌は信用制度そのものが揺らぐ段階にまで達した状態といえる。こうした局面は、世界市場の拡大とともに国際的な連鎖を生じることが多く、19世紀以降の世界経済史で重要な位置を占めている。
恐慌の特徴
- 証券や商品価格の急落と、それに伴う企業の倒産・銀行破綻が集中して起こる。
- 信用の収縮により、資金調達が困難となり、健全な企業にも支払不能の危機が波及する。
- 生産の急激な縮小と失業の激増を通じて、社会不安や政治的動揺を引き起こす。
- 同時代の人びとに強い恐怖感・不安感を与えるため、「パニック」の語が用いられることも多い。
これらの特徴から、恐慌は単なる景気の悪化ではなく、信用制度と市場メカニズムの機能不全が一気に噴出した局面として理解されるのである。
恐慌の原因
恐慌の原因については多様な説明が存在するが、共通して指摘されるのは、拡張局面における過剰投資と過剰生産である。とくに第二次産業革命以降、重化学工業と大規模工場が発達すると、設備投資には長期・巨額の資金が必要になり、銀行や証券市場を介した信用供与が拡大した。これにより、金融と産業資本が結びついた金融資本が形成され、好況時には株価の高騰や投機熱が一段と高まったが、その反動として暴落と恐慌が生じやすくなったとされる。また、列強による植民地獲得競争や帝国主義政策も、過剰資本と過剰生産のはけ口を対外に求める過程で金融不安を内包し、国際的な危機の連鎖を引き起こす要因となった。
歴史的な恐慌の例
19世紀以降、世界経済は何度も大規模な恐慌を経験してきた。19世紀後半には鉄道投資や株式投機の行き過ぎから、欧米各国で幾度もの金融危機が起こり、世界市場の拡大とともにその影響は広範囲に及んだ。とりわけ20世紀初頭からの世界市場の統合のなかで、大規模で長期にわたる世界恐慌が生じ、各国経済を深刻な不況と失業に陥れた。日本では、戦前期において輸出や金融に依存した経済構造のもとで、銀行の破綻や財閥企業の経営危機が社会問題化し、政治体制にも影響を与えた。こうした歴史的事例は、恐慌が単なる経済現象にとどまらず、社会構造や政治体制の変動と結びつくことを示している。
恐慌と資本主義経済
恐慌の理論的理解においては、古典派経済学やマルクス経済学、ケインズ経済学などがそれぞれ異なる説明を与えてきた。古典派は市場メカニズムによる自動調整を前提に、恐慌を外生的要因や一時的な不均衡として捉える傾向が強かったのに対し、マルクスは資本主義固有の矛盾が必然的に危機と恐慌を生み出すと論じた。他方、ケインズは有効需要の不足に着目し、国家による財政・金融政策を通じて投資と雇用を下支えすることで、恐慌の深刻化を防ぐべきだと主張した。このように、恐慌は資本主義経済の安定性や国家介入の是非をめぐる議論の中心的テーマであり、現代に至るまで資本主義経済の構造と運動法則を考えるうえで不可欠の概念である。
恐慌と景気循環の関係
近代経済史における景気の波は、拡張・後退・底・回復といった局面からなる景気循環として把握されてきた。このなかで恐慌は、とくに転換点付近で生じる急激な調整局面を指し、価格・生産・雇用・信用が同時に大きく変動する点に特色がある。好況期に形成された産業構造や国際分業の歪みが、恐慌によって一挙に清算されることも多く、長期的には新たな技術革新や産業構造の再編成につながることもある。この意味で、恐慌は破壊的側面と再編成の契機という二面性をもち、世界経済のダイナミズムを理解するうえで重要な歴史的現象と位置づけられるのである。