座屈試験機
座屈試験機は、柱材や薄板、パイプ、複合材部材などの圧縮下における不安定現象(座屈)を再現し、臨界荷重や座屈モード、ポスト座屈挙動を定量化する装置である。長柱の全体座屈から薄肉部材の局所座屈まで、端末条件や細長比の違いによる強度低下を把握し、設計の安全率や座屈曲線の妥当性検証、有限要素法(FEA)モデルのバリデーションに用いる。荷重‐変位曲線のピークやモード遷移点を高分解能で捉えるため、荷重計、変位計、ひずみゲージ、画像計測(DIC)などを統合し、端面の平行度・芯合わせを厳密に管理する点が重要である。
原理と座屈の基礎
座屈は幾何学的非線形に起因する不安定化であり、弾性域内でも突然発現する。代表例であるオイラー座屈では、ピン‐ピン条件の長柱に対し臨界荷重が Pcr=π2EI/(KL)2 で与えられる(Eはヤング率、Iは断面2次モーメント、Lは長さ、Kは有効長係数)。細長比 λ=KL/r が大きいほど座屈しやすく、端末条件が固定‐固定に近づくほど Pcr は増大する。実試験では初期たわみや偏心、残留応力が理論値を下回らせるため、座屈試験機は端末条件の再現性と芯出しの再現性が鍵となる。
装置構成
座屈試験機は、剛性の高いロードフレーム、サーボ電動またはサーボ油圧のアクチュエータ、広帯域のロードセル、差動トランス型変位計(LVDT)やレーザ変位計、回転自由度を持つ端具(ピン・球面座)や固定端具、同軸アライメント治具、データロガ/制御器から構成される。DICを併用する場合は高解像カメラと照明を備え、面外変形やモード形状を非接触で取得する。試験力は微小荷重から数百kN級までレンジがあり、薄板用の座屈治具やパネル用の周辺固定治具も用意される。
試験方法
- 試験片の準備:寸法、直線度、表面粗さ、端面の平行度を確認し、必要に応じて面取りや座金を用意する。
- 端末条件の設定:ピン、固定、片持ち等を端具で再現し、Kの想定に合わせる。
- 芯出し:ダイヤルゲージや自動アライメント機構で偏心・傾きを最小化する。
- 載荷:変位または荷重制御でゆっくり載荷し、荷重‐変位曲線と側方変位を同時記録する。
- データ取得:ピーク荷重、座屈発生時のモード、ポスト座屈の軟化勾配を記録する。
規格と試験条件
金属・複合材・サンドイッチパネル等で参照すべきJIS/ISO/ASTMの関連規格は複数存在する。圧縮試験の載荷速度や環境条件(温度・湿度)、試験片の直線度公差、端面の平行度規定、座屈モードの判定基準、データの統計処理(n数、信頼区間)の定義を確認し、装置の力・変位の校正記録を残す。標準では初期欠陥の扱いが重要であり、実構造に近い拘束条件へ拡張する場合は別途治具を設計する。
データの解釈
荷重‐変位曲線は、初期直線域、臨界点近傍の非線形化、ピーク後の軟化域に分かれる。ピーク荷重が臨界荷重に対応し、側方変位の発散と同時にモード形状が現れる。細長比別の座屈曲線(例:Pcr対λ)を作成し、設計用の有効座屈応力度を導く。DICがあれば曲率分布やねじり成分を抽出でき、曲げ座屈、ねじり座屈、曲げねじり座屈の判定が可能である。座屈試験機は、弾塑性域でのポスト座屈安定性や耐力劣化率の評価にも活用される。
座屈モードと対象
- 曲げ座屈:細長柱で支配的。弱軸・強軸を考慮する。
- 曲げねじり座屈:開断面や非対称断面で発現。
- 局所座屈:薄板・形鋼フランジ等で板要素が局所的に波打つ。
- 横座屈(梁の横ねじり):曲げを受ける梁での座屈。
- シェル座屈:薄肉円筒・球殻の外圧/軸圧縮座屈。
代表的な試験片と治具
丸パイプ、角パイプ、H形鋼部材、C形開断面、CFRP積層柱、サンドイッチパネル、リブ補強パネル等が対象である。パネルは周辺固定枠を用い、柱は端部治具で回転・拘束条件を設定する。初期たわみ導入用の薄シム、偏心導入ブロックを用いて感度解析を行うこともある。座屈試験機は多様な治具の付け替えで守備範囲を広げられる。
誤差要因と対策
- 偏心・傾き:高精度アライメント、球面座の使用、逐次測定で補正。
- 端面摩擦:潤滑・低摩擦端具で理想境界に近づける。
- 装置剛性:フレームや治具の変形を補正し、系剛性を別途評価。
- 初期欠陥:試験片の直線度測定と、解析での初期不整モデル化。
- 計測レンジ:ロードセルと変位計の適正レンジ選定、ノイズ除去。
結果の活用
座屈試験機で得た臨界荷重・モードは、柱・梁・パネル設計の許容応力度や座屈長、座屈係数の見直しに直結する。材料のヤング率やせん断弾性率のばらつき、接合部の柔性、実装時の境界条件の差異を織り込んだ安全側設計が可能になる。さらに実験‐解析の相関を取り、材料モデルや境界条件モデルの同定、軽量化設計や最適補剛配置の検討に役立つ。
関連機器との違いと連携
万能材料試験機は引張・圧縮・曲げの一般特性評価に適し、座屈再現には端具・治具の拡張が要る。純圧縮の降伏強さ評価は圧縮モードで実施し、座屈が介入しない寸法設計が必要である。引張側の基礎特性は引張試験機で取得し、表面状態の影響は表面粗さ測定機で、輪郭や板厚の幾何公差は輪郭形状測定機で確認する。寸法のばらつき管理には画像寸法測定機が有効であり、材料硬さはロックウェル硬さ試験機やビッカース硬さ試験機で補足する。これらを統合することで、座屈試験機の結果解釈の確度が高まる。