作
漢字の作は「つくる」「なしとげる」を基本義とし、日本語では「さく」と読んで作品・著作・佳作のように文化的成果を指す一方、農業では作柄・耕作・二毛作・輪作など生産と土地利用の概念を担う語である。歴史・社会の文脈では、年貢体系や租税、労働動員、工房・手工業の運営とも密接に結びつき、豊作・凶作は共同体の安定と市場価格を左右した。中国・日本・欧州の前近代社会では作の変動が飢饉や移住、反乱の誘因となり、また技術革新や制度改革の推進力にもなったのである。
語義と用法
作の語義は大きく三領域に分かれる。第一に文化・文芸の「作品」「著作」であり、作者の作為・作風・作例といった評価語を派生させる。第二に生産の語で、耕作・稲作・畑作・作柄のように作物と土地利用を表す。第三に行為・制度の語で、作法・作事・作業のような作為一般、さらには役務負担(作役)の意味合いを帯びる場合である。漢文訓読に由来する「〜を作す」の用法は行政文書や史料にも見え、政策立案や条令の制定を指示する定型句として機能してきた。
農業における「作」の体系
農業分野での作は、作付・作期・作柄の三要素で理解できる。単作は一年一回の収穫、二毛作は暖地での二期作、輪作は複数作物を交互に栽培して地力維持を図る方式である。欧州中世の三圃制は休閑を含む三区画の輪作であり、アジア東部では水稲・麦・雑穀の組み合わせが地域に応じて展開した。肥料・灌漑・品種改良は作柄を安定させ、余剰の増大は人口伸長と都市市場の発達を促したのである。
- 単作:同一作物を年一回栽培し管理を簡素化する方式
- 二毛作:同一年に二回収穫し土地の稼働率を高める方式
- 輪作:作物を周期的に入れ替え地力回復と病害抑制を図る方式
- 混作:同一圃場に複数作物を併作しリスク分散を図る方式
日本史における「作」と年貢・村落
日本では律令制下で口分田の耕作と租庸調が制度化され、平安後期以降は荘園公領制の下で作手・作人が土⼠・名主と関係しつつ耕作を担った。年貢は作柄に応じて負担が変動し、検見や検田は支配者側による把握手段であった。中世末から近世にかけて二毛作の普及や新田開発が進むと、石高制の下で作の安定化が課題となり、災害・冷害への備荒貯蔵や治水が村落共同体の重要任務となった。凶作時の救恤は百姓一揆や打ちこわしの抑止にも関わったのである。
中国史における「作」と手工業・役務
中国史では、徭役・作役が国家財政と軍需を支え、農閑期に動員される労働が城壁や運河の構築に充てられた。また都城や商業都市周辺には官営・民営の工房(作坊)が立地し、絹織物・陶磁・塩・鉄などの生産を担った。唐宋以降の市場経済の進展は手工業の分業化を促し、工匠の技術蓄積は高付加価値の「佳作」を生み出した。作柄の不振は塩価・米価の高騰を招き、租税や通貨流通にも連鎖したのである。
欧州中世の作柄と都市の勃興
欧州では三圃制・有畜輪作の普及が作柄を底上げし、余剰は定期市や都市の発達につながった。気候の温暖期には人口が増加し、冷涼化や病疫が重なると凶作と飢饉が頻発した。収穫の揺らぎは地代形態の変化や賦役の再編を招き、領主制・ギルド・都市自治の関係性を変質させた。穀物市況の常時監視と備蓄は都市運営の核心であり、作況報告は政治判断の素材であった。
市場・財政と「作」の連関
作柄は価格・賃金・租税の三者を媒介して国家財政と家計を直撃する。豊作は穀価を下げ購買力を押し上げるが、生産者所得は需給に左右される。凶作は逆に物価上昇と実質賃金低下を招き、暴動や移民の誘因となる。為替・流通制度の発達は衝撃を緩和するが、輸送・貯蔵の制約が大きい時代には地域ごとの作況差がそのまま生活水準の格差となり、救荒作物の導入や公共投資の有無が生死を分けたのである。
文化・学術における「作」
文化領域では、著作は知の制度化を示し、作法は行為の規範を定め、作庭・作曲は熟練の技倆と美意識を表す。史書や日記類は制作背景や写本過程を記し、作者・編者・校勘者の役割分担を明確にする。教育では作文・作図・作表の訓練が論証力と表現力を鍛え、社会では「作為」「作意」といった語が意図性・恣意性をめぐる議論を喚起してきた。
語構成と派生
作は複合語の形成力が強い。耕作・開作・作域のように生産空間を示すもの、作柄・作期のように収穫を示すもの、作曲・作詩・作庭のように創作行為を示すもの、作法・作意・作為のように規範や意図を示すものがある。現代日本語では「つくり話」「作り手」のように仮名交じりで口語的な派生も一般的である。
概念の射程
作は単なる「製作」や「収穫」を超え、土地・労働・技術・制度・文化を結ぶ節点として機能してきた。作柄の統計化、作業の標準化、作品の評価軸の整備は、それぞれ経済・行政・学芸の発展を方向付ける。歴史研究においては、作の変動を長期系列で捉え、自然環境・市場・権力の相互作用を総合的に読み解くことが重要である。