ドーラヴィーラー|都市計画と水資源管理を概観

ドーラヴィーラー

ドーラヴィーラーは、インダス文明後期まで存続した西インド・グジャラート州の都市遺跡である。乾燥地のカッチ湿地帯・カディル島に立地し、城塞区・中町・下町からなる明確な区画計画、巨大貯水槽群と石積み水路、段状の階段井戸など、希少な水利インフラで知られる。インダス文字を並べた大型標識の出土も特筆され、都市の公共空間や権威の表示を示す資料となる。陸上・沿岸交易の結節点として半貴石加工や貝製品が発達し、メソポタミア方面との交流をうかがわせる資料も多い。1960年代に遺跡の存在が確認され、1990年代以降の本格発掘で都市像が立体的に復元された。2021年にはユネスコ世界遺産に登録され、インダス都市の多様性と環境適応の好例として評価されている。

位置と環境

遺跡はグジャラート州カッチ地方のカディル島に位置し、雨季には周囲が湿地化、乾季には塩性土壌が広がる厳しい環境である。こうした条件は水の確保と保存を都市運営の最重要課題にし、結果として多段の貯水・配水システム、地形を利用した集水面の設計、洪水と渇水の双方に備える冗長的インフラの整備へとつながった。地勢の傾斜や自然の谷筋を読み込んだ配置は、環境工学的な知見の蓄積を物語る。

歴史的背景と年代

編年的にはインダス文明の成熟期(前2600年頃~前2000年頃)に最盛を迎え、後続段階まで占有が続いたとみられる。土器様式や計量石、印章、建築技法の変化から、都市が長期にわたり維持・改修され、居住層の社会構成や生産の重心が段階的に移る様子がうかがえる。乾燥化の進行や流域ネットワークの変動は、都市規模の縮小や機能転換を促し、最終的な放棄へ至る要因の一つとなった。

都市構造と区画

  • 城塞区:高所に築かれた堅固な区画。行政・儀礼・貯蔵が想定され、精緻な石造基壇と門構が備わる。
  • 中町:職人居住や作業場が展開。道路網は規格化され、排水路・路肩構造が明瞭である。
  • 下町:居住密度が高く、日常生産と交易の受け皿。広場状空間や「競技場」とも解される長方形区画がある。

水利システム

降雨の一挙集水、城塞基壇への導水、貯水槽への段階的貯留、堰と溢流路による流量調整、沈殿池による砂分離など、連結した仕組みが確認される。石張りの巨大タンクは乾季の生活水と非常時備蓄を担い、階段井戸は水位低下に対応して取水深を調整した。これらは都市の「見えるインフラ」として社会の統合と秩序を象徴した。

経済と交易

半貴石カーネリアンのビーズ製作、貝殻加工、銅合金器の使用、秤量石と計量単位の普及が顕著である。内陸路と沿岸航路を架橋する立地は、インダス流域諸都市との物資循環を支え、湾岸の港湾拠点と連動した。印章や外来起源の素材は長距離ネットワークの証拠であり、都市の富と分業の高度化を映す。

文字文化と宗教

インダス文字を大型に並べた標識板の出土は、公共空間での表示・告知・象徴操作を示唆する。宗教については神殿型建築の明確な証拠は乏しいが、祭祀的施設や供儀跡、動植物意匠が刻まれた印章が集合的信仰や都市儀礼の存在を物語る。標準化された度量衡とともに、記号体系は都市秩序の基盤であった。

発掘史と研究

1960年代に遺跡が学界に周知され、1990年代からインド考古調査局による広域的な発掘・保存計画が進展した。区画ごとの建設段階、補修痕、転用材の解析が重ねられ、測地・建築・水理の総合研究が進む。最近はリモートセンシングやマイクロ地形測量、材料科学的分析が導入され、都市のライフサイクルと環境応答の復元精度が高まっている。

世界遺産の価値と保護

2021年の世界遺産登録は、乾燥地における都市インフラの卓越性、インダス文明の地域的多様性、景観と都市計画の統合を評価したものである。保存では塩害・風食・観光圧の管理が課題で、排水路の復旧や石積みの補強、現地解説と周辺集落との協働が重要となる。持続的保全は過去の技術遺産を未来社会へ橋渡しする行為である。

名称と表記

ドーラヴィーラーは英語表記で Dholavira とされ、日本語では表音的に定着した。地域名や地形語彙に由来する転写差が報告されるが、学術文献では上記の綴りが通用する。本稿では慣用のカタカナ表記を用いた。