サンディカリズム
概説
サンディカリズムは、労働組合(フランス語で「サンディカ」)を基礎とし、資本主義と国家を打倒して生産者の自治にもとづく社会を実現しようとする思想である。議会での政党活動よりも、ストライキやボイコットなどの直接行動を重視し、とくに「ゼネラル・ストライキ(総同盟罷業)」を社会変革の決定的手段とみなす点に特徴がある。主にフランスの労働運動の中で発展し、アナーキズムの個人の自由や反権力の精神を受け継ぎつつ、それを労働組合という組織的形態に結びつけた点で独自の位置を占めた。この潮流は後のフランス思想、とくにサルトルらによる実存主義的な社会批判とも関連づけて論じられることがあるほか、ドイツ思想における権力批判を展開したニーチェとの連続性を指摘する議論もみられる。
歴史的背景
サンディカリズムが台頭したのは、19世紀末から20世紀初頭のフランス第3共和政期である。急速な産業化の進展により、大工場に集中した労働者は長時間労働と低賃金に苦しんでいたが、議会に進出した社会主義政党や改良主義的社会民主主義は、しばしば妥協的であると批判された。こうしたなかで、フランス労働総同盟(cgt)の急進派は、議会に依存せず、組合員自身の直接行動によって社会を変革しようと主張し、それがサンディカリズムの理論として体系化されていった。この背景には、個人の主体性や権威への根本的懐疑を強調したニーチェの思想や、後に階級闘争と人間解放の問題を結びつけて論じたサルトルらの思索に通じる、近代社会批判の広い潮流が存在していたといえる。
思想の特徴
- 直接行動の重視:議会での討論や選挙よりも、ストライキ、サボタージュ、ボイコットなど、労働者が自ら行う直接行動を中心的手段とみなす。ここには、既成制度に依存せず自ら行動する主体を重視する点で、ニーチェの批判的精神との響き合いがみられる。
- ゼネラル・ストライキ:産業別・地域別のストライキを結合し、全国規模で労働を停止する総同盟罷業によって、資本主義秩序を麻痺させ、労働者による新しい社会秩序への移行をめざす。
- 反議会主義・反官僚主義:政党や国家官僚機構は、やがて自らの利害を優先し、労働者から遊離すると考えられた。そのため、サンディカリズムは政党政治を不信の目で見て、労働組合を社会変革の主体と位置づける。
- 労働組合による生産者自治:将来の社会においては、各産業の労働組合が工場や事業所を直接管理し、それらの連合体が全体として経済を調整するという構想を持つ。こうした構想は、主体的な選択と責任を重視する後世のサルトルの哲学と結びつけて語られることもある。
各国への展開
サンディカリズムは、まずフランスで理論化されたのち、イタリアやスペインをはじめとするヨーロッパ諸国、さらにアメリカ合衆国の労働運動にも影響を与えた。イタリアでは革命的組合主義として知られ、一部は後のファシズムと複雑な関係を結ぶことになる。スペインでは、アナーキズムの強い伝統と結びつき、農村部や都市部での直接行動を伴う運動として展開した。こうした国際的広がりの中で、労働者の連帯や自己組織化を強調する思想は、その後の20世紀思想、とくにフランス戦後思想における労働・疎外・自由の問題系へと受け継がれていく。たとえば、戦後のサルトルは、実存の自由と社会的束縛との緊張をテーマに、人間がいかに歴史をつくりかえるかという問題を追究し、その議論はサンディカリズムの行動原理と比較されることがある。また、権力や道徳の再検討を迫ったニーチェの批判思想は、権威的な国家や資本への不服従を正当化する理論的資源として読み直された。
評価と影響
サンディカリズムは、第1次世界大戦やロシア革命を経るなかで、国家主導の社会主義や議会制民主主義の台頭によって影をひそめていった。しかし、職場レベルでの自治や共同決定の思想、企業内民主主義を求める運動、さらには新しい社会運動における水平的ネットワークの構想などには、その影響を見いだすことができる。権威や制度への従属を拒み、自ら行動する主体を重視する点で、ニーチェの価値転換の思想、そして社会構造の中で自由を実現しようとしたサルトルの実存哲学と結びつけて論じられることも多い。今日では、労働組合運動の歴史の一局面としてだけでなく、近代社会における自由と平等、民主主義のあり方を再考するための重要な手がかりとして、サンディカリズムの理念が再評価されている。