キューバの独立
キューバの独立は、スペイン帝国の植民地として数世紀にわたり支配されてきたカリブ海の島が、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、長期の武装闘争と国際政治の転換を通じて主権国家へと移行していく過程である。砂糖と奴隷制に依拠した植民地社会、ラテンアメリカ諸地域で先行した独立運動、そして米西戦争とアメリカ合衆国の介入が複雑に絡み合い、形式的な独立と実質的な従属という二重性を生み出した点に特徴がある。
スペイン植民地としてのキューバ
キューバは大航海時代以降、スペイン帝国の要衝として位置づけられた。ハバナはカリブ海交易の拠点として繁栄し、19世紀になると砂糖プランテーションと黒人奴隷制が経済の基盤となった。ラテンアメリカ大陸の多くの地域が19世紀前半に独立を達成した後も、キューバはスペイン支配にとどまり、宗主国にとって貴重な残存植民地であり続けた。この構造的状況が、後のキューバの独立運動を長期化させる要因となった。
独立運動の背景と社会構造
19世紀半ば、キューバ社会には独立を志向する勢力と、スペインとの関係維持を望む勢力が併存していた。大土地所有者の一部はプランテーション経営と奴隷制の維持を優先し、急進的な共和主義者や自由有色人、奴隷解放を求める人々は政治的・社会的変革を要求した。こうした対立は、フランス革命やアメリカ独立革命、さらにはヨーロッパの近代思想の影響とも結びつき、自由・平等・民族自決といった理念が浸透していく。近代思想家としてサルトルやニーチェに象徴されるような個人の自由・価値の転換を強調する潮流は、ラテンアメリカ知識人の議論の背景にも位置づけられる。
第1次独立戦争(十年戦争)
1868年、東部地域のクリオーリョ(植民地生まれの白人エリート)を中心に反乱が勃発し、いわゆる十年戦争が始まった。この戦争では、スペインからの政治的独立と奴隷制廃止が掲げられ、多くの農民や有色人が参加した。だが、植民地支配を支える経済利害や指導層内部の対立、国際的支援の不足により、戦争は決定的勝利に至らず、1878年の講和で一応終結する。とはいえ十年戦争は、武装闘争を通じてキューバの独立の理念を社会に広く浸透させる役割を果たした。
ホセ・マルティと第2次独立戦争
19世紀末になると、亡命知識人ホセ・マルティが中心となって独立運動が再編される。マルティは詩人であり思想家でもあり、ラテンアメリカの団結と反帝国主義を訴えた人物として知られる。彼は亡命先から資金調達と組織化を進め、1895年に新たな武装蜂起が開始された。マルティ自身は戦闘の初期に戦死するが、彼の思想はその後のキューバの独立運動の精神的支柱となった。植民地支配と帝国主義批判という観点は、後世における思想史的議論でも、例えばサルトルやニーチェらの議論と並置されることがある。
米西戦争とアメリカの介入
1898年、ハバナ港でアメリカ軍艦メイン号が爆沈した事件を契機に、アメリカ合衆国とスペインの間で米西戦争が勃発した。アメリカは「キューバ解放」を掲げつつ軍事介入を行い、短期の戦争でスペインを破る。講和条約によってスペインはキューバ支配を放棄し、同時にフィリピンなど他地域の植民地を失った。こうしてスペインによる支配は終わったが、キューバにはアメリカ軍政が敷かれ、強い影響力が及ぶことになった。この構図は、形式的なキューバの独立と、実質的な対外依存の二重構造を生じさせた。
1902年の共和国樹立とプラット条項
1902年、キューバ共和国が成立し、名目上の主権国家としての地位を獲得した。しかし、アメリカはプラット条項と呼ばれる取り決めによって、キューバの外交・財政・治安に介入する権利を保持し、必要とみなせば軍事的干渉も可能とした。これにより、キューバは砂糖産業へのアメリカ資本の浸透や政治的不安定に悩まされ、「独立国家」でありながら対外的従属から完全には抜け出せなかった。このような半ば従属的な独立は、後のラテンアメリカ諸国の対外関係や反帝国主義思想を理解するうえでも重要な事例とされる。
キューバの独立の歴史的意義
キューバの独立は、旧宗主国スペインからの解放という点だけでなく、新興大国アメリカの台頭とカリブ海・ラテンアメリカへの影響力拡大という観点からも理解されるべき過程である。長期の游撃戦と農民・有色人の参加は、社会的下層を含む広範な層が政治的主体として登場する契機となった。一方で、外部勢力の関与によって、主権と経済的自立の達成は大きく制約され続けた。このジレンマは、20世紀以降のキューバ革命やラテンアメリカの反帝国主義運動を考える際の前提となり、思想史・国際関係史の両面から継続的に検討されている。こうした文脈で、近代ヨーロッパ思想に代表されるサルトルやニーチェ、さらには科学技術と産業社会の象徴としてのボルトといった主題も、近代世界システムの一体性を示す手がかりとして比較の射程に入ってくる。