カルデナス|メキシコ石油国有化を断行

カルデナス

ラサロ・カルデナスは、20世紀前半のメキシコを代表する政治家・軍人であり、1930年代の改革路線を指導した大統領である。彼は革命期に形成された民族主義と社会正義の理念を受け継ぎつつ、それを制度として定着させた指導者とみなされる。とくに農地改革と石油産業の国有化は、その後のメキシコ国家の性格を決定づけ、ラテンアメリカの反帝国主義運動にも大きな影響を与えた。

青年期とメキシコ革命

カルデナスは地方の比較的貧しい家庭に生まれ、若くして軍隊に入り、メキシコ革命期の武装闘争に参加した。革命軍での経験は、農民や労働者の生活実態を直接知る契機となり、のちの社会改革志向の基盤となった。彼は革命後の混乱のなかで軍人として頭角をあらわし、地域の秩序回復や行政運営に携わることで政治的な手腕を身につけていった。

政治経歴と権力基盤

カルデナスはやがて州知事や閣僚を歴任し、革命後政権を担った制度的革命党系の勢力と結びつきながら影響力を強めた。ミチョアカン州知事としては農地分配や教育の充実に力を入れ、実務能力と改革志向の双方を示した。この地方統治の実績が中央政界で評価され、ディアス独裁を打倒した後の体制を安定させようとする与党指導部から、次期大統領候補として推されることになった。

大統領就任と社会改革

カルデナスは1934年に大統領に就任すると、農地改革と労働保護を柱とする政策を積極的に進めた。彼は農民に対するエヒード(共有地)の分配を拡大し、革命期からの土地要求を一定程度満たそうとした。また、労働組合を支持基盤として組織化し、賃金や労働条件の改善を促した。こうした政策は、マデロ以来の民主化の理念と、サパタビリャら農民指導者の要求を制度のなかで統合しようとする試みであったといえる。

石油国有化と対外関係

1938年、カルデナス政権は国内で事業を展開していた外国資本の石油会社と対立し、ついに石油産業の全面的な国有化に踏み切った。この決定は英米企業の利害を直接おびやかすものであり、国際的な緊張を招いたが、国内では主権防衛と社会正義の象徴として熱烈に支持された。石油国有化は、メキシコ内乱レフォルマ戦争以来続いてきた対外的干渉への抵抗の一環として位置づけられ、メキシコの民族主義を強く鼓舞した。

政党組織と体制の安定

カルデナスは、軍人・農民・労働者・官僚といった諸勢力を包括する政党組織を整備し、革命の成果を維持するための制度的枠組みを構築した。これはのちに制度的革命党へと発展し、長期にわたる一党優位体制の基礎となる。彼のもとで、革命の理想は一方では社会改革として具体化し、他方では強力な中央集権体制として結晶した点に特徴がある。

退任後の活動と歴史的評価

任期終了後、カルデナスは形式上政治の第一線を退いたが、第二次世界大戦期や冷戦初期においても道義的権威として大きな影響力を保ち続けた。彼は亡命者の受け入れや社会運動の支援を通じて、反ファシズム・反権威主義の立場を示したとされる。今日、フアレスらとならんでメキシコ史を代表する改革派指導者のひとりとして位置づけられており、その政策はラテンアメリカにおける国家主導型開発や資源ナショナリズムを理解するうえで重要な事例とみなされている。