オーバーシュート
オーバーシュートとは、目標値に対する応答が一時的に行き過ぎる現象である。制御工学ではステップ応答における最大偏差、電力エレクトロニクスではスイッチング素子のターンオフ時に現れる過電圧、機械系では位置決め後の行き過ぎ量、信号処理ではパルス波形の立上がりに付随する行き過ぎなどを指す。エネルギー蓄積要素(ばね・慣性・電磁気的インダクタンス・キャパシタンス)と遅れ・帰還・非線形が相互作用することでオーバーシュートが生じ、過渡的な安全性・性能・信頼性に影響を与える。
定義と数理的指標
連続時間の2次系ステップ応答ではオーバーシュートは最大値と定常値の差で定義され、百分率最大オーバーシュートは Mp[%] = exp(-ζπ/√(1-ζ^2))×100 と表せる(0<ζ<1)。ここでζはダンピング比であり、ζが小さいほどオーバーシュートは大きい。関連する時刻応答指標には立上がり時間、整定時間、行き過ぎ時間がある。周波数領域では共振ピーク Mr やゲイン余裕・位相余裕がオーバーシュート傾向を示唆する。
発生メカニズム
- エネルギー交換: L-C や質量-ばね間のエネルギー往復によりオーバーシュートとリンギングが生じる。
- 遅れと帰還: センサ・演算・駆動の遅れにより位相が遅れ、負帰還でも実効ダンピングが不足するとオーバーシュートが増える。
- 配線寄生成分: スイッチング回路の寄生L・Cがトランジェント時に過電圧オーバーシュートを誘発する。
- サンプリング/量子化: デジタル制御の離散化や飽和・デッドゾーンが非線形オーバーシュートを生む。
設計上の影響
電力機器ではオーバーシュートが半導体素子の定格超過、EMI悪化、絶縁ストレス増大の主因となる。機械サーボでは位置決めオーバーランやワーク衝撃、振動残留に直結する。計測ではプローブ容量や帯域の不整合で見かけ上のオーバーシュートが増幅され、誤判断につながる。品質・安全面では一時的でも規格上限超過が不合格要因となる。
抑制・低減の代表手法
- 制御系設計: PID/2自由度制御でζを高め、位相進み補償・ノッチで共振を抑える。モデル予測やフィードフォワードで指令整形しオーバーシュートを抑える。
- 波形整形: スルーレート制限、S字加減速、ソフトスタートにより目標近傍の加速度を抑える。
- 電源回路: RC/RCDスナバ、クランプ(TVS、アクティブクランプ)、ゲート抵抗でスイッチングオーバーシュートを低減。帰還補償で出力過渡を整える。
- レイアウト/実装: ループ面積最小化、帰還配線のガード、GNDリターンの最短化により寄生L・Cを抑えオーバーシュートを減らす。
- 減衰導入: 機械ではダンパ、電気では直列抵抗やフェライトで実効ダンピングを付与する。
解析・評価の実務
時刻歴解析ではステップ応答から Mp、整定時間、立上がり時間を読み取りオーバーシュートの傾向を定量化する。周波数領域ではボード線図のピークやNyquistプロットの余裕で評価する。回路はSPICE、機械は状態空間/有限要素、制御は離散化モデルで仮想試作し、実機では帯域適合したオシロ/加速度計/エンコーダで測定する。測定系の帯域・プローブ容量・接地の不備はオーバーシュートの見かけを歪めるため、治具と校正が重要である。
分野別の用法と具体例
制御工学
2次近似が成り立つサーボでオーバーシュートはζと自然周波数で規定される。目標追従ではリファレンス整形、外乱抑制ではループ整形を優先し、トレードオフで最適点を探る。
電力エレクトロニクス
MOSFET/IGBTのターンオフ時、配線寄生L×di/dtによりドレイン(コレクタ)過電圧オーバーシュートが発生する。スナバ・クランプとレイアウトの最適化、ゲート駆動の立下り制御が要点である。
機械システム
位置決めでのオーバーシュートはワーク衝撃や共振励起を招く。加減速プロファイルのS字化、共振回避のフィルタ、機械減衰の付加で抑制する。
信号処理/計測
帯域制限やフィルタ位相特性によりステップ応答でオーバーシュートが現れる。ウィンドウ選択、プリエンファシス、アンチエイリアス設計、適正プローブでの観測が必要である。
設計上の注意と誤解
- オーバーシュートとリンギングは別概念だが共起しやすい。最大値だけでなく減衰比も評価する。
- 過度のダンピングは応答速度を犠牲にする。仕様に応じて許容オーバーシュートと整定時間のバランスを設計する。
- ソフトスタートで起動オーバーシュートは減るが、負荷過渡やラインサージへの耐性とは別に検討する。
- 測定器の帯域・立上がり時間不足はオーバーシュートを過小評価する。逆に不適切な接地は過大評価を招く。
関連する評価指標と用語
- アンダーシュート、リンギング、整定時間、立上がり時間
- ダンピング比ζ、自然周波数ωn、ゲイン余裕・位相余裕
- スナバ、クランプ、ソフトスタート、S字加減速
- EMI/EMC、サージ、寄生インダクタンス/キャパシタンス