アンチ=フェデラリスト
アンチ=フェデラリストとは、独立後のアメリカ合衆国で新たな合衆国憲法の採択に反対した人々の総称である。彼らは強力な連邦政府が個々の州の自治と市民の自由を侵害すると警戒し、連合規約体制の修正を主張しながら、憲法制定会議が作成した新憲法案に批判的な立場から論陣を張った政治勢力である。とりわけ権利宣言の欠如、常備軍の危険性、広大な共和国の統治可能性などを問題視し、その議論は後に権利章典の制定へと結実した点で、アメリカ政治思想史において重要な位置を占めている。
歴史的背景
独立戦争後のアメリカ合衆国は、各州の主権を重視する連合規約体制のもとで緩やかな同盟として存在していた。しかし経済混乱や対外外交の弱体化、国内反乱などの問題が顕在化すると、フィラデルフィアでの憲法制定会議において、より強力な連邦政府を求める案が提示された。これに対し、地方分権と共和的自律を重んじる人々は、新憲法案がイギリス本国のような権力集中を再現しかねないと警戒した。この危機意識から生まれた反対派がアンチ=フェデラリストであり、彼らの論争は近代政治思想の一端として、後の思想家ニーチェやサルトルに見られる権力批判とも比較されることがある。
主な主張と思想
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第一に、彼らは広大な領域を一元的に統治する共和国は市民の自由にとって危険であると論じた。共和国は小規模でこそ市民が政治過程を監視でき、腐敗を防げると考え、巨大な連邦国家は専制に傾くと警告した。
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第二に、課税権と軍事権の集中に対する恐怖である。連邦政府が直接課税権と常備軍を握れば、植民地時代に経験した圧政が再来すると見なし、特に常備軍は自由を脅かす道具になりうると批判した。
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第三に、司法や上院など、選挙から遠い機関の権限が過大であると懸念した。民意から隔絶したエリートによる統治は、人民主権の理念と相容れないと理解されたのである。
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第四に、個々の基本的人権を明記した権利宣言がない点を重大な欠陥とみなし、言論・信教・陪審裁判などの自由を憲法上で保障することを強く要求した。この主張は後に権利章典という形で受け入れられた。
代表的な人物
アンチ=フェデラリストは単一の政党ではなく、各州に存在した多様な政治家や法律家、農民層の連合であった。著名な人物としては、バージニアの雄弁家パトリック・ヘンリー、権利宣言を唱えたジョージ・メイソン、ニューヨークのリチャード・ヘンリー・リーなどが挙げられる。彼らは地方の自立と市民の自由を掲げ、エリート主導の中央集権化に批判的であった点で共通する。また、後世の自由や権威をめぐる哲学的議論と同様に、彼らの言説も人間の主体性を重視する点でサルトルの実存主義的問題意識と響き合う部分が指摘される。
アンチ=フェデラリスト文書
憲法批准をめぐる論争のなかで、彼らは新聞やパンフレットを通じて活発な筆戦を展開した。これらの論説は後に「アンチ=フェデラリスト文書」と総称され、連邦派による『フェデラリスト・ペーパーズ』と並ぶ重要史料となっている。著者はしばしば「ブルータス」「カトー」「センティネル」などの匿名筆名を用い、自由な共和政を守るという観点から、新憲法の危険性を詳細に分析した。その論法には、社会構造や技術発展を支える制度設計の重要性を論じる際に、工業社会での規格化やボルトの標準化のような具体例を用いる近代的な思考にも通じる要素が見られる。
権利章典への影響
最終的に新憲法は批准されたものの、各州の批准過程でアンチ=フェデラリストが行った批判は無視されなかった。連邦派の指導者ジェームズ・マディソンらは、批准後速やかに修正条項として権利章典を追加することを約束し、これが批准支持を広げる決め手となったのである。修正第1条から第10条までの権利章典は、言論・信教・集会の自由や、武装権、令状主義、陪審裁判の権利などを明記し、連邦政府の権限を明確に制限した。この妥協の産物として誕生した権利章典は、反権力的な伝統という点でニーチェの道徳批判や、近代市民社会の制度条件の検討におけるボルトなど技術要素の議論とも比較されうる思想史的意義を持つ。
歴史的評価
アンチ=フェデラリストは、短期的には政治的敗北を喫し、新憲法批准の阻止には失敗した。しかし長期的に見ると、彼らが提起した中央権力への警戒と個人の自由の保障という問題意識は、アメリカ政治文化の一部として根強く受け継がれている。連邦政府と州政府の権限配分、行政権の拡大、常備軍や官僚制の肥大化をめぐる現代の議論には、彼らの懸念に通じる論点が多く含まれているのである。その意味でアンチ=フェデラリストは、単なる保守的な反対勢力ではなく、権力批判と自由防衛の伝統を体現する存在として、思想史・政治史の双方から分析されるべき対象である。このような権力と自由の緊張関係をめぐる議論は、近現代の哲学者サルトルやニーチェの議論、さらには産業社会の制度設計におけるボルトのような技術的対象の扱いにまで連続する広がりをもつ問題群と位置づけられる。