遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)とは、相続において、遺留分を有する相続人が、その遺留分を侵害された場合に、その侵害された額に相当する金銭の支払いを他の相続人や受遺者に対して請求する権利のことを指す。この制度は、相続人の最低限の財産権を保護し、相続における公平性を確保するために設けられている。
遺留分侵害額請求の背景と目的
遺留分は、特定の相続人に対して最低限保障される相続分であり、被相続人が遺言や生前贈与などで財産を特定の相続人や第三者に多く配分した場合でも、遺留分を有する相続人がその権利を保護するための手段として、遺留分侵害額請求が存在する。この制度の目的は、相続における不公平を是正し、相続人の生活の安定を図ることにある。
遺留分侵害額請求権を持つ者
遺留分侵害額請求権を持つ者は、法定相続人のうち、遺留分を有する相続人に限定されている。具体的には、以下の相続人が該当する。
1. 直系卑属(子、孫など)
被相続人の子や孫などの直系卑属は、遺留分を有する相続人であり、遺留分が侵害された場合には遺留分侵害額請求権を行使することができる。
2. 直系尊属(父母、祖父母など)
被相続人に子や孫がいない場合、直系尊属(父母や祖父母)が遺留分を有する相続人となる。これにより、遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求権を行使することができる。
3. 配偶者
被相続人の配偶者も遺留分を有する相続人であり、遺留分が侵害された場合には遺留分侵害額請求権を行使することができる。
4. 兄弟姉妹
被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、遺留分侵害額請求権を行使することはできない。
遺留分の割合
遺留分の割合は、相続人の構成によって異なるが、基本的に以下のように定められている。
1. 相続人が直系卑属(子や孫)または配偶者のみの場合
遺留分の割合は、相続財産の1/2である。例えば、被相続人に配偶者と子がいる場合、配偶者と子それぞれが1/4ずつ遺留分を有する。
2. 相続人が直系尊属(父母や祖父母)のみの場合
遺留分の割合は、相続財産の1/3である。例えば、被相続人に子がおらず、父母が相続人となる場合、父母それぞれが1/6ずつ遺留分を有する。
遺留分侵害額請求の手続き
遺留分侵害額請求を行う際には、以下の手続きを経ることが一般的である。
1. 遺留分の計算
まず、被相続人の遺産総額から遺留分を計算する。遺産総額には、被相続人の死亡時に存在する財産に加え、生前贈与された財産も含まれることがある。
2. 遺留分の侵害の有無を確認
次に、遺言や生前贈与により、遺留分が侵害されているかどうかを確認する。遺留分が侵害されている場合、その侵害額を計算する。
3. 請求の通知
遺留分が侵害されていることが確認された場合、遺留分を侵害した相続人や受遺者に対して、遺留分侵害額請求の意思表示を行う。この際、書面で通知することが一般的である。
4. 合意または訴訟
遺留分侵害額請求を受けた相続人や受遺者との間で、侵害された遺留分の金銭的な支払いに関して合意が成立すれば、合意に基づいて支払いが行われる。合意が成立しない場合、遺留分侵害額請求訴訟が提起されることがある。
遺留分侵害額請求の期限
遺留分侵害額請求には、時効が存在するため、期限内に請求を行う必要がある。具体的には、以下の期限が定められている。
- 相続開始および遺留分侵害を知った時から1年以内: この期間を過ぎると、遺留分侵害額請求権は時効により消滅する。
- 相続開始から10年以内: 相続開始から10年が経過すると、たとえ遺留分侵害を後で知ったとしても、請求権は時効により消滅する。
遺留分侵害額請求の影響
遺留分侵害額請求は、相続人間の関係に大きな影響を与える可能性がある。請求を行うことで、相続人間での対立が深まることもあるため、慎重に対応することが求められる。また、請求によって相続財産の分配が再度見直されるため、相続手続きが複雑化することもある。
遺留分侵害額請求における注意点
遺留分侵害額請求を行う際には、以下の点に注意することが重要である。
1. 事前の専門家への相談
遺留分侵害額請求は、法律的に複雑な問題を含むため、専門家(弁護士や司法書士)に相談することが推奨される。専門家の助言を受けることで、手続きがスムーズに進み、相続人間の対立を最小限に抑えることができる。
2. 相続人間の話し合い
遺留分侵害額請求を行う前に、相続人間での話し合いによる解決を試みることが重要である。話し合いによる解決が難しい場合には、家庭裁判所での調停や訴訟を検討する。
3. 遺産の評価
遺留分を計算する際には、遺産の評価が重要となる。特に、不動産や未公開株式などの評価が難しい資産については、専門家による評価を依頼することが必要となる。
まとめ
遺留分侵害額請求は、相続において遺留分を有する相続人が、その権利を保護するために行使できる重要な手段である。遺留分を巡る問題は、相続人間での対立を引き起こすことがあるため、慎重な対応が求められる。専門家の助言を受けつつ、相続人間での話し合いや適切な手続きを通じて、円満な相続を目指すことが重要である。