連成場解析|多物理の相互作用を高精度統合解析

連成場解析

連成場解析とは、熱、流体、構造、電磁気、音響、化学反応など複数の物理場が相互作用する現象を、統一的な数理モデルで同時に解く手法である。単独場の解析では捉えにくい発熱と変形、流れと圧力脈動、電磁場と温度上昇などの相互依存を、偏微分方程式(PDE)と界面条件の体系として記述し、数値的に予測する。設計初期から連成場解析を用いることで、試作回数の削減、信頼性の向上、限界性能の把握が可能となる。

対象となる物理場と典型的な連成

代表的な組合せは、熱–構造(熱応力・熱変形)、流体–構造(FSI:翼やバルブの振動)、電磁–熱(誘導加熱・絶縁劣化)、電磁–構造(磁力による変位)、音響–構造(騒音・振動)、流体–熱–化学(反応流・燃焼)、圧電–構造(センサ・アクチュエータ)などである。実務では、まず支配的な相互作用を特定し、必要十分な物理場を選び込むことが重要である。

支配方程式と界面条件

各場はエネルギー保存、運動量保存、電磁方程式、拡散–反応式などのPDEで表される。連成の要点は界面条件にある。例えば熱–構造では温度場が材料物性とひずみを変え、逆に塑性発熱が温度に影響する。流体–構造では界面で速度連続・応力釣合いを満たす。これらを正しく定式化し、幾何学が変形する場合は移動境界やメッシュ変形も同時に扱う。

弱連成と強連成

弱連成は一方の解を他方へ順次受け渡す手順で、片方向または逐次反復で結合する。強連成は全場を同時に解き、非線形方程式系として整合解を得る。弱連成は設定が容易で計算資源も抑えやすいが、強い相互作用や共振を伴う問題では強連成が求められる。

解法アーキテクチャ

解法はモノリシック(単一連立系)と分割(パーティションド)の二系統に大別される。モノリシックは収束性と整合性に優れる一方、実装や前処理が難しい。分割は既存ソルバ(構造系・CFD系など)を結合でき拡張性が高い。どちらもニュートン法や固定点反復、アンダーリラクゼーションなどの非線形解法と、前処理付きKrylov法などの線形解法を用いる。

離散化と時間積分

空間離散にはFEM、FVM、FDMが用いられる。移流支配では数値拡散や発振を抑える安定化(例:SUPG)が有効である。時間積分は陰解法が連成には適しやすいが、急峻な現象には適応時間刻みが有効である。メッシュ・時間刻みの感度解析は、誤差制御とモデル信頼性の根拠となる。

数値安定性と収束の鍵

物理量のスケール差は条件数を悪化させるため、無次元化や適切なスケーリングが有効である。材料非線形(塑性・粘弾性)や接触、乱流–構造の共振は収束を難しくする要因であり、負荷の段階適用、境界条件の滑らかな導入、パラメトリック連続(ホモトピー)などで安定化を図る。

実務での進め方

  1. 現象の整理:支配的な相互作用と評価指標を定義する。
  2. モデル化:幾何、材料、境界・初期条件、界面条件を明確化する。
  3. 単独場検証:各場を個別に検証し、物性・境界条件の妥当性を確認する。
  4. 連成度の段階化:弱連成から開始し、必要に応じて強連成へ拡張する。
  5. V&V:ベンチマーク、実験値、感度解析で妥当性を担保する。

適用事例

  • 電子機器の熱–構造:パッケージの熱応力、はんだ疲労寿命。
  • 流体–構造(FSI):バルブや翼のフラッター、配管の流力振動。
  • 電磁–熱:モータの銅損・鉄損発熱と冷却設計。
  • 圧電–構造:センサ・アクチュエータの感度最適化。
  • 反応流:触媒層の拡散–反応と圧力損失の同時設計。

ソフトウェアとデータ連携

連成場解析は、汎用CAE(例:ANSYS、Abaqus、COMSOL Multiphysics、MSC Nastran、OpenFOAM など)で広く実現される。メッシュや場データの交換には中立フォーマット(STEP、Parasolid、VTK など)やマッピング機能を用いる。異なるメッシュ間では保存則を満たす保守的補間が望ましい。

補足:メッシュ連成とデータマッピング

非適合メッシュ間のデータ移送では、最近傍や要素重み付けによる内挿が用いられる。力や熱流束を扱う場合は、面積・体積での積分一致を保つことで物理量の保存を確保する。移動境界ではALEや再メッシングにより、品質劣化を抑える。

補足:検証と妥当性確認(V&V)

検証は離散化誤差の評価(メッシュ・時間刻み依存性)とソルバの正当性確認、妥当性確認は実験や公知ベンチマークとの一致度評価である。目標値に対する不確かさを明示し、感度の高いパラメータ(物性、境界条件)に優先的に計測・同定リソースを配分することが、堅牢な連成場解析につながる。