猫の皿(落語)|古典落語の名作を軽妙に描写

猫の皿(落語)

猫の皿(落語)とは、古典落語の中でも特に趣向を凝らした滑稽噺である。旅人がふと立ち寄った骨董好きの店主が営む茶店で、猫が高価な皿で何気なくミルクを飲んでいる場面から物語が展開し、その皿を巡る駆け引きが笑いを誘う。登場人物のやりとりによって人間の欲深さや機転の妙味がコミカルに描かれており、落語界の名作として長く親しまれている作品である。

あらすじ

猫の皿は、何気なく座った茶店の一角で、骨董品としては価値が高いが店主自身はその価値を把握していない様子の皿を発見した旅人が、どうにかしてそれを安く手に入れようと画策する物語である。皿だけを買い求めると店主に高値を吹っかけられそうだと考えた旅人は、あくまで猫目当てとして金を払い、ついでに皿をオマケのように手に入れようとする。ところが店主は一筋縄ではいかず、その思惑を逆手にとって旅人をやり込めてしまう。旅人の欲深さと店主のしたたかさが絶妙な会話の応酬によって描かれ、最後には予想外のオチを迎える。落語ならではの知的な笑いと巧みな会話運びが魅力である。

月亭方正

登場人物

主な登場人物は、店主と旅人の二人である。店主は骨董の知識があるようでいて、その裏をかくような含みのある言動をとり、真の狙いを隠し持っている。旅人は観察力に優れ、商売の駆け引きに長けているつもりだが、最後には自分の欲がアダとなって痛い目を見る。場面によっては、近所の客や猫を観察する第三者としての通りすがりなどが加わることもあるが、基本的には店主と旅人による対話劇でストーリーが展開する。この二人の掛け合いが本作の最大の見どころである。

演目の台本

【店先】
店主「へい、いらっしゃい。お客さん、何になさいます?」
旅人「ちょっとお茶でもいただこうかと思ってな。ここらで一服をとね」
店主「へい、かしこまりました。猫がちょろちょろしてますが、気になさいませんかね」
旅人「猫? かわいい猫じゃないか。それに……あれはずいぶんと古そうな皿だね。まさか店の器じゃないよな」
店主「へえ、これは大した皿じゃございませんよ。骨董屋で何かのついでに譲り受けたんですが、猫が気に入っちまって、水やミルクをなめる器になっております」
旅人(心の声)「(あれは高価な皿に違いない。だけど、あからさまに欲しがると足元を見られるかもしれん。よし、猫を買うフリで皿を手に入れてやろう)」
旅人「ご主人、実はこの猫がずいぶんとかわいく見えてね。よかったら、その猫を譲ってくれないか」
店主「この猫ですかい? 確かに人なつっこい猫ですが、そんなにお気に召しますか」
旅人「そうなんだ。旅の道中の相棒にしたい。いくらぐらいで譲ってくれる?」
店主「そうですね、相場がわからねえんですが、まあ十両ばかりいただければ」
旅人「十両だと? 猫一匹にしては高いような気がするけど……まあ、気に入ったから買わせてもらおう。ところで、その猫の使っている皿はどれぐらいで譲ってくれるんだい?」
店主「え? この皿ですかい? これはウチにとって大事な宝物でしてね。とても高価なのでお売りできません」
旅人「そう言わずに。猫も買っているんだから、どうせなら一緒に譲ってくれないか?」
店主「いえいえ、それは勘弁してください。実はこの皿、猫を売るときにとても具合がいいんで」
旅人「具合がいいとは?」
店主「この皿のおかげで、猫が高く売れるんですよ。へっへっへ」

演目の魅力

この短いやりとりの中で、店主の狡猾さと旅人の思惑が交錯し、最後には店主のほうが一枚上手だとわかる逆転劇が明らかになる。聴衆は旅人の視点を共有しながらも、店主がとぼけながら旅人を罠にはめていく展開に笑いを誘われる。シンプルな構造ながらも、落語ならではの話芸が随所に散りばめられ、古典的な枠組みの中で普遍的な人間の欲望が描かれている点が猫の皿の魅力である。演者によっては猫をめぐる仕種や、皿を手に入れようと焦る旅人の心の声など、演出の工夫が異なるため、同じ演目でも個性が引き立つ。時代を超えて受け継がれる噺として、現在でも落語ファンをはじめ多くの観客を楽しませ続けている。

補足

以上は骨董品の皿をめぐる軽妙なやりとりを中心に据えた台本であり、実際の高座では演者によるアドリブや所作の工夫によって臨機応変に変化することもある。落語は観客との呼吸や場の雰囲気に合わせて話を展開できる柔軟性を備えているため、同じ話でも演者ごとにまったく異なる味わいが生まれる。

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