窒化ガリウム(GaN)
窒化ガリウム(GaN)は、ガリウム(Ga)と窒素(N)から構成されるワイドバンドギャップ半導体であり、高いバンドギャップエネルギー、優れた耐電圧特性、そして高速スイッチング能力を持つ点で注目を集めている。特にパワーデバイスや高周波デバイス、光デバイスなどの分野では、従来のシリコン(Si)やGaAs(ガリウムヒ素)を凌駕する性能を発揮するケースが増えてきた。高温下での動作安定性が高いことや、絶縁破壊電界が大きいことにより、大きな電流や電圧を扱う際にも損失を低く抑えられる。加えて、ブルーライトLEDや紫外線LEDの実用化に貢献した素材としても知られており、車載用ヘッドライトやディスプレイ、殺菌・医療機器など用途は非常に広範囲に及ぶ。
物性と特徴
GaNの最大の特徴は、約3.4eVという広いバンドギャップを有している点にある。このワイドバンドギャップによって、高い絶縁破壊電界と高温動作が実現されるほか、高速スイッチング時のスイッチング損失も低減できる。例えば同程度の電圧領域を扱うシリコンデバイスと比較すると、GaNデバイスは格段に小型化しやすく、システム全体の省エネルギー化に寄与する。さらに、高電子移動度トランジスタ(HEMT)として用いられると、高周波帯域での高ゲインや低ノイズ特性を得られ、レーダーや高速通信分野においても大きな期待が寄せられている。
結晶成長技術
GaNは融点が非常に高く、直接の塊状結晶の育成が難しいため、サファイア基板やSiC基板、あるいはSi基板を用いてエピタキシャル成長する手法が広く採用されている。金属有機気相成長(MOCVD)や分子線エピタキシー(MBE)などの方法でGaN層を積層し、結晶欠陥を極力低減させながら均一な膜を作り上げることが品質向上の鍵となる。基板の選択や成長温度の管理は難度が高いものの、近年は量産技術の進歩により、デバイスの安定供給とコスト低減が少しずつ実現してきている。
GaNデバイス製造
GaNデバイス製造では、アニールやアクティベーションの工程に工夫が必要である。例えばドーパントの拡散制御やゲート絶縁膜の成膜などでは、温度や雰囲気を厳密に管理しないと結晶欠陥や信頼性の問題が発生しやすい。また、サファイアなど硬度の高い基板を扱う場合、ウェーハの取り扱いに注意を怠ると微細なクラックや歪みが生じ、歩留まりの低下につながる。こうしたプロセス管理上のノウハウがデバイス性能を左右するため、各企業や研究機関が独自の技術を蓄積している。
応用例
GaNはパワーデバイスとして、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)のインバータやDC-DCコンバータに利用されるケースが増えている。これらの分野では、高耐圧と高効率が要求されるうえ、発熱を抑えることが車体設計やバッテリー寿命に大きく関わるため、GaNの特性が有利に働く。また、5G・6Gなどの次世代高速通信では、GaNベースの高周波アンプによって大容量データの伝送速度を支えられると期待されている。照明分野でも青色LEDや紫外線LEDの高出力化や寿命向上が進み、ディスプレイや殺菌用途など新たな市場が広がっている。