環大西洋革命
環大西洋革命とは、18世紀後半から19世紀前半に 大西洋を囲む地域でおきた、大西洋を挟んだ複数の地域で相次いで発生した革命運動の総称である。具体的には“イギリスの産業革命”と“フランス革命”、“アメリカ独立革命”、“ラテンアメリカの独立革命”の4つの革命がそれにあたる。これらの革命は七年戦争を契機にほぼ同時期におこり、自由主義的な要素をもつ一連の革命とみなすことができる。啓蒙思想や社会契約論などの新しい概念が広く共有され、各地の政治体制や社会制度に変化をもたらしたとされる。自由・平等・国民主権などの理念が一気に広まり、旧来の身分制や封建的支配構造を揺るがす重要な契機となった。特にアメリカ独立革命やフランス革命が掲げた「人権」というテーマは、その後の世界史においても長く語られる象徴的な柱となっている。
背景
環大西洋革命の背景には、大航海時代以降に形成された大西洋経済圏の存在がある。ヨーロッパ各国は新大陸からの資源や貿易で富を蓄え、同時に各植民地では先住民やアフリカからの奴隷労働に依存した経済活動が広がっていた。こうした経済交流が活発になるにつれ、政治的・社会的な対立も顕在化していった。旧大陸と新大陸をつなぐ一連の海上交易ネットワークは、同時に思想や情報の伝播ルートとしても機能した。特に啓蒙思想や合理主義的な科学の発展によって、世界を批判的かつ合理的に捉える下地が多くの人々に共有されるようになったのである。
思想的影響
環大西洋革命において重要なのは、啓蒙思想に源を発する個人の権利意識や立憲主義の概念が通底していた点である。ロックやモンテスキュー、ルソーといった思想家の著作が広く読まれ、人々は王権神授説への疑問を深めた。同時に、自然法の考え方を援用して、合理的な原則に基づく政治体制こそが正統性を持つと主張する風潮が高まった。王侯貴族の専制体制への批判意識が一気に燃え上がり、市民革命として具体化する土壌が整ったとされる。
イギリス産業革命
イギリスの産業革命は、イギリスで起きた産業的な技術革命をいう。繊維技術の向上、蒸気機関、鉄道や蒸気船など現代の経済資本主義が発達する契機になる。七年戦争に勝利したイギリスは、広大な植民地を手にいれた。このころ、植民地はイギリスの産業革命を迎えていたイギリスの工業製品の市場となり、また綿花のような原料を供給する場となって,ますますイギリスの工業化を進展させることとなり、世界の工場と呼ばれる湯になった。

産業革命
アメリカ独立革命
イギリスは七年戦争に勝利したが、戦費拡大のため財政は困窮した。その負担をアメリカ植民地に負担させようと重税をかけたが、これに反発したアメリカ植民地の住民は独立への機運は高まることとなる。イギリスに対抗していたフランスがアメリカを支援していたこともあり、アメリカ独立革命にいたる。アメリ力独立革命の理念はフランス革命に大きな影響を与えた。

アメリカ独立
フランス革命
7年戦争に敗北したフランスは財政改革を行ったが、結果、市民に重税を強いることとなる。重税に不満を抱えた農民に加え、自由な経済活動を求めていた商工業などのブルジョワジー、啓蒙思想運動にあった学者や貴族は、絶対王政に反発した。革命運動は燃え上がり、フランス革命が引き起こされる。フランス革命の後絶対王政は倒れるが、混乱を招くこととなる。この後、フランス近代化を方向づけたナポレオンが台頭した。ナポレオンはヨーロッパ全土に進出することにより、ヨーロッパ諸国が革命を成し遂げることとなる。

フランス革命
ラテンアメリカの独立革命
アメリカ独立革命とフランス革命の理念は、遠いラテンアメリカ にも影響を与えた。はじめにハイチで黒人奴隷による蜂起のハイチ革命が起こる。機をうかがっていたラテンアメリカもナポレオン戦争によって本国が混乱すると、一気に独立が起こる。
略年
1811年 パラグアイ
1816年 アルゼンチン
1818年 チリ
1819年 コロンビア
1821年 メキシコ
1821年 ペルー
1822年 ブラジル
1823年 中央アメリカ連邦
1825年 ボリビア
1828年 ウルグアイ
ハイチ革命
カリブ海のサン=ドマング(現ハイチ)で勃発した革命は、奴隷の身分であった黒人たちが主体となって独立を果たした点で特徴的である。1791年に始まった反乱はフランス本国の混乱も重なりながら拡大し、1804年にはハイチ共和国としての独立を宣言した。黒人奴隷の革命による独立達成は世界初の事例であり、大西洋をまたいだ奴隷制度の在り方や植民地支配の正統性に大きな一石を投じることになった。この反乱が周辺地域へも波及し、ラテンアメリカの独立運動にも刺激を与えたとされる。
歴史学的評価
環大西洋革命は、近代史上の一大転換点として扱われることが多い。単に王権や封建制を否定するだけでなく、個人の権利や国民国家の概念を普及させた意義は大きいとされる。それぞれの革命が置かれた政治・社会条件は異なるが、互いに参照し合いながら理念と経験を共有していった点が特徴である。アメリカからフランスへ、あるいはカリブ海や南米へと波及する思想の伝播経路を探ることで、グローバルな歴史的連鎖を浮き彫りにする研究が進められている。この一連の運動によって誕生した諸国や新体制は多くの課題を抱えつつも、後の国際社会の形成や人権思想の普及につながる基礎を築いたと評価される。