特別の寄与|法定相続人以外の献身を評価する制度

特別の寄与

特別の寄与とは、相続が発生した際に被相続人の介護や看護など、法定相続人以外の親族による貢献を金銭的評価として認めるための制度である。2019年の民法改正により導入されたもので、従来は相続人以外の親族が被相続人の生活を支えたとしても「寄与分」が認められなかった問題点を改善する狙いがあった。特別の寄与を主張できるのは、例えば娘婿や孫、義理の親族など、法定相続人でない近親者であることが特徴である。実際には主張が認められるための要件や手続きが定められ、遺産分割協議において他の相続人と話し合いながら、裁判所の審判手続を利用することもある。これによって、家族による無償の介護や看護が正当に評価され、被相続人の最期を支えた親族が少しでも報われる道を開いたのである。

制度導入の背景

高齢化社会が進む現代では、家庭内での介護や看護が長期化しやすく、経済的負担や精神的負担を一部の親族が大きく背負うケースが増えている。以前の民法では「寄与分」という仕組みで法定相続人の貢献を評価していたが、相続人以外の親族に対する保障は不十分であった。これにより、たとえ実質的な介護を担っていても法定相続人ではない親族には遺産の分配が行われないことがあり、家族間で不公平感が生じる懸念が指摘されていた。こうした問題を解消し、家族の絆を守るために設けられたのが特別の寄与という新制度である。

対象となる親族

特別の寄与を主張できるのは、被相続人の家族・親族でありながら法定相続人とならない者である。具体的には、被相続人の息子の妻(いわゆる嫁)や孫、さらには兄弟姉妹の配偶者などが該当する。これらの親族が被相続人と同居し、長期にわたる介護や家事援助を行うなど、経済的負担を含む大きな献身をしていた場合に、その労力を金銭的に評価しようとするのが本制度の趣旨である。

要件と手続き

特別の寄与が認められるには、主に「被相続人の介護や看護、あるいは療養看護に類する貢献があったこと」「相続人が負担すべき範囲を超える特段の尽力をしたこと」などが要件として挙げられる。実際の主張手続きでは、遺産分割協議の段階で他の相続人と話し合い、合意が得られれば協議書に記載する。合意が難しい場合には、家庭裁判所に対して審判手続きを申し立て、裁判官の判断を仰ぐ流れとなる。寄与の期間や方法、費用負担などを具体的に示す証拠書類が重要視されるため、日々の記録や領収書などを保管しておくことが大切である。

報酬請求権としての性格

特別の寄与による金銭的評価は「報酬請求権」という位置づけで整理されている。つまり、被相続人の財産が法定相続人に引き継がれる前に、介護や看護で貢献した親族が対価を請求できるという考え方である。したがって遺産を直接分与されるわけではなく、主張が認められた分が金銭として受け取られることになる。この点が寄与分とは異なる大きな特徴であり、制度設計上は「相続人でもない者が遺産を分配されるのは民法上の筋が通らない」という議論に配慮した結果でもある。

寄与分との比較

従来から存在する寄与分は法定相続人の貢献を調整する制度であり、相続分を増減させる形で評価してきた。一方、特別の寄与は「法定相続人以外の親族」にスポットを当てた制度であり、報酬請求権という形で被相続人の遺産から金銭を受け取れる仕組みである。両者は制度趣旨こそ似通う部分があるが、対象となる親族や評価方法が異なるため、ケースに応じてどちらの制度を利用すべきか見極める必要がある。

実務上のポイント

まず、特別の寄与を主張する場合は、介護期間や提供したサービスの内容、費用負担の有無などを客観的に示す証拠が不可欠である。家事や通院付き添いなど、明確な報酬が発生しにくい行為ほど証明が難しくなるため、日々の記録や日誌を付けておくことが有効となる。次に、合意形成が難航した場合には弁護士や司法書士などの専門家に相談し、裁判所での審判手続きを視野に入れる。家庭内の問題に第三者が介入することに抵抗を感じるケースは多いが、適正な評価を得るためには合理的なプロセスが欠かせない。

家族関係への影響

特別の寄与を主張することは、残された家族との間に感情的な対立を生む可能性もある。本来は被相続人への厚意や愛情から行ってきた介護が、金銭評価に結びつくことで家族関係がぎくしゃくする恐れがある。しかし、実際に長期介護を担った親族が経済的に困窮する事態を避けるためにも、法制度を上手に活用し、公平な分配や話し合いの場を設けることは重要である。家族の絆を保ちつつ実質的な負担を評価するには、理解と協力が必要といえる。

今後の展望

日本の高齢化は今後さらに進行し、家族間で介護負担が偏るケースは増えると予想される。そうした状況下で特別の寄与の利用が増加すれば、相続における公平性や家族のケアに対する社会的評価が高まる可能性がある。制度としては比較的新しいが、実務例が積み重なることで運用上のノウハウが洗練され、申立手続きの簡素化やより明確な評価基準の確立も期待される。今後は介護保険や社会保障制度との連携を強化し、相続だけに留まらない総合的な家族支援策へと発展する道筋が検討されると考えられる。

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