無電柱化|電線の地中埋設で景観と防災性を高める取り組み

無電柱化

無電柱化とは、道路や街路に設置されている電柱や電線を地中化することで景観や防災性を向上させる取り組みである。電線を地中に埋設することで、災害時の倒壊や断線リスクを減らし、都市美観の改善や観光振興にも寄与するとされている。日本各地で同様の施策が進められているが、工事費用や維持管理にかかるコストが大きいこともあり、一律に導入が進むわけではない。それでも自然災害が多い国情やインバウンド需要の高まりを背景に、都市部を中心に無電柱化を推進する動きが加速している。

背景と目的

日本では高い経済成長期に急速に整備された電力インフラによって、道沿いには膨大な数の電柱が並ぶ景観が一般的になってきた。しかし台風や地震などの災害時には電柱が倒壊し、避難や救助の妨げになる危険性が指摘されている。そこで防災面と都市景観の両面から注目される施策が無電柱化である。地中化することによって、災害時のライフライン確保や市民の安全性を高めるだけでなく、観光都市の美観向上や地域のブランド価値を上げる効果も期待されている。

主な方法と工法

無電柱化を実現するには、電力線や通信線を地中に埋設する工法が基本となる。大きく分けて「共同溝方式」と「直接埋設方式」の2種類があり、共同溝方式では電力会社や通信事業者が共同で使用するトンネルを道路の下に造り、そこにケーブルを収容する。一方、直接埋設方式は道路の側面に管路を埋め、そこへケーブルを通す手法である。前者は工事費が高額になりやすいが保守点検が容易であり、後者は費用面のメリットがあるが地中の空間活用に制限があるなど、一長一短が存在する。

導入のメリット

災害多発国である日本において、電柱の倒壊リスクを減らすことは防災・減災の観点から非常に重要な意義を持つ。特に台風や暴風雨での飛来物が原因で電線が切断される事故を抑制でき、停電による都市機能のマヒも最小限に抑えられる。また、視界を遮る電線がなくなることで街並みがすっきりと整い、歴史的景観や夜景の演出にもプラス効果をもたらす。さらには車道や歩道の拡張に活用できるスペースが確保され、歩行者や自転車の安全性向上にもつながると期待されている。

課題とコスト

一方で無電柱化には多額の初期投資が必要であり、道路を掘削して地中にケーブルを埋め込む工事には莫大な費用と時間がかかる。特に既存の都市部では地下に既に多種多様な管や施設が入り組んでいるため、調整が複雑かつ困難になりがちである。また、地中化した設備は点検や改修のたびに掘り返し作業を伴う可能性があるため、維持管理費もバカにならない。こうしたコスト面のハードルが、無電柱化を一気に普及させるには至っていない主な理由の一つといえる。

国内外の動向

ヨーロッパやシンガポールなど、早期から地中化を進めてきた地域では、観光戦略や都市設計の一環として無電柱化が定着している。一方、日本では歴史的経緯から電力インフラが地上に集中しており、海外に比べると導入率が低い状況である。それでも東京や大阪など大都市圏では観光客増加やオリンピックなどの国際イベントを契機に、街路の美観向上を目指して地中化が加速している。国交省なども支援制度や補助金を拡充することで、地方自治体が計画を立てやすい環境を整えつつある。

タイトルとURLをコピーしました