波長分割多重用素子(WDM用素子)|多波長で光信号を効率的に扱う要素技術

波長分割多重(WDM)用素子

光通信の大容量化を支える手法として、波長分割多重(WDM)は欠かせない技術になっている。複数の異なる波長に光信号を割り当て、それらを1本の光ファイバで同時に伝送することで、通信容量を大幅に拡張できる。このWDMを実現するには、各波長を正確に合成・分離し、損失やノイズを最小限に抑えるためのWDM用素子が重要となる。具体的には、フィルタや回折格子(AWG)、カプラ、スプリッタ、光増幅器などが挙げられる。これらの素子は通信品質を左右する要ともいえる存在であり、通信事業者や機器メーカーが性能向上にしのぎを削っている。

WDMの基礎

WDMは、光ファイバの透過領域を細分化し、複数の波長帯域を同時に利用することで大容量通信を可能にする技術である。光は電磁波の一種であり、波長ごとに独立したチャンネルとして扱える。通常はC-band(約1530~1565nm)やL-band(約1565~1625nm)などの領域で多重化するが、近年はそれ以外の波長帯も研究対象になっている。WDMの導入により、既存の光ファイバを置き換えずに通信容量を拡張できるため、経済的なメリットが大きい。

WDM用素子の種類

WDM用素子は機能によって大きく分けると、波長の合成・分離を行うフィルタ系素子と、光信号を増幅・変調するアクティブ素子に大別される。フィルタ系素子としては、干渉フィルタやアレイ導波路格子(AWG)などが代表的だ。一方、アクティブ素子には、半導体レーザや光増幅器、電気光学変調器などが含まれる。これらの素子を組み合わせることで、特定の帯域を増幅したり、多重化された光信号をデータごとに分けたりできる。

光フィルタとAWG

光フィルタは、特定の波長だけを透過あるいは反射させることで、不要な波長成分をカットし、目的とする波長のみを取り出す。多層薄膜技術を用いた干渉フィルタやリング共振器を利用したフィルタなどがある。また、AWG(Arrayed Waveguide Grating)は、光回路基板上に配列した波長差を利用する格子構造により、多数の波長を同時に分離・合成する装置だ。大容量化が進む現代の光通信システムでは、AWGの高集積化や低損失化が特に重要視されている。

カプラとスプリッタの役割

光カプラやスプリッタは、複数の光信号を束ねたり、1本の光信号を複数に分岐したりするための素子である。カプラは融着技術や導波路技術を用いて光を混合・分配し、適切なパワーバランスを実現する。一方、スプリッタは単純に光を分割する機能を担うが、特定の分配比率を制御するスプリッタも存在する。WDMシステムでは、波長合成前後の光の分配や監視用信号の抜き出しなどに用いられる。

WDM用レーザと変調器

WDMシステムでは複数のレーザ光源を使い分け、波長ごとに異なるチャンネルを形成する。半導体レーザは消費電力が低く、発振波長を制御しやすい特性を持つため、WDM用光源として主流になっている。変調器は電気信号を光信号に変換する要素であり、一般的な直接変調方式だけでなく、外部変調方式(Mach-ZehnderやEAMなど)が高品質通信にはよく使われる。チャンネル間の干渉を抑え、安定した高ビットレート伝送を行うには、レーザと変調器の特性の最適化が不可欠だ。

光増幅器と雑音特性

WDMで多チャンネル化すると、それぞれのチャンネルが同じ伝送路を共有するため、途中で光信号が減衰しやすい。そこで光増幅器(EDFAやRaman増幅器など)が用いられる。増幅器は入力された光信号をそのままの波長で増幅するが、同時に雑音(ASEなど)も増幅してしまう。雑音特性が悪化すると信号品質が劣化し、誤り率が増加するため、SN比を保つ設計が必要になる。WDMシステムでは、各チャンネルに対する増幅ゲインの均一化も大きな課題だ。

これからの技術動向

これからのWDMシステムでは、1本のファイバにさらに多くの波長を載せる「超多重化」や空間多重技術との組み合わせが注目されている。シリコンフォトニクスを活用して小型化・低コスト化を図る研究も盛んに行われ、装置全体の集積度を上げることでシステムの省エネルギー化や高信頼化につながる。量子ドットレーザや新材料を用いた変調器の研究も進んでおり、近い将来、通信インフラの基盤をさらに高性能化する可能性がある。

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