後方散乱電子検出器(BSE検出器)|高原子番号コントラストで材料組成を可視化

後方散乱電子検出器(BSE検出器)

後方散乱電子検出器(BSE検出器)は、走査型電子顕微鏡(SEM)で用いられる検出器の一種である。入射電子ビームが試料に照射されると、原子核との弾性散乱によって高角度で反射された電子が生じる。これらの後方散乱電子検出器(BSE検出器)は、試料表面から放出された電子を高感度に捉え、その強度変化によって元素の平均原子番号差や試料の組成・構造の差異を可視化できる。特に原子番号が大きい元素ほど散乱されやすく明るいコントラストとなるため、材料中の局所的な組成変化を比較的簡単に評価できる点が特徴である。

検出原理

後方散乱電子検出器は主に、試料に対して上方または側方に配置され、試料表面から反射された電子を検出する。入射電子が試料中の原子と衝突し、弾性散乱によって大きな角度で後方に反射されるため、この散乱を受けた電子を専用の検出器が読み取る仕組みだ。SEM内部の対物レンズ近傍に配置されることもあれば、試料ステージ上部にドーナツ型の検出器が置かれるタイプもある。どの配置であっても、高原子番号元素ほど散乱電子の数が増える性質を利用して、原子番号コントラスト像を得るのが狙いである。

特徴とコントラスト

後方散乱電子検出器で得られる像は、基本的に試料表面の原子番号差に依存したコントラストを提供する。例えば、重金属を含む領域や高密度の領域は明るく映り、軽元素中心の領域は暗く映る傾向がある。一方で、通常の二次電子像(SE像)は表面形状(形状コントラスト)を強調しやすく、両方の検出器の像を比較することで、試料の表面形状と組成分布の両面を詳細に把握できる。これにより、複合材料や多相系材料などの局所構造を解析する際に強力な手段となる。

装置構成と配置

SEMに設置される後方散乱電子検出器の形状や配置方法にはいくつかのバリエーションが存在する。代表例として、ドーナツ型の環状検出器を試料の直上に配置し、高角度散乱電子を効率的に捉える方式が一般的である。さらに検出器を多分割化し、異なる方位からの後方散乱電子を同時に検出する「マルチセグメント型」も普及しており、局所的な立体角度情報を組み合わせることで三次元的な情報を導出できる場合もある。こうした配置や機能の違いによって得られるコントラストや分解能、測定スピードなどが変化する。

応用分野

  • 材料分析:後方散乱電子検出器は金属組織の観察や複合材料中の分散状態の評価などに有用である。粒子径や相分布を可視化でき、EDS(エネルギー分散型X線分析)と併用することでさらに定量的な組成解析が可能となる。
  • 半導体分野:ICチップなどの断面を観察するときに、拡散層や基板材料の原子番号差を素早く把握できる。微細構造解析にも適しており、故障解析や品質管理に欠かせない。

使用上の注意点

後方散乱電子検出器は高原子番号元素の検出感度が高いため、局所的に密度の大きな不純物や汚染が存在する場合、過度にコントラストが高く映ってしまうケースがある。また、表面が非常に凹凸のあるサンプルの場合、ビーム入射角や散乱角度の変化が複雑になるため、定量的な評価が難しくなることもある。高い分解能を得るには、加速電圧や検出器への信号取り込み角度などを慎重に設定する必要がある。

二次電子検出器との比較

SEMでは後方散乱電子検出器だけでなく、二次電子検出器(SE検出器)も併設されるのが一般的だ。SE像は表面形状の微細な凹凸を強調し、BSE像は組成の違いをコントラストで示すという補完関係にある。これにより、同じ視野を二つの異なる視点(形状と組成)から観察でき、材料や微細構造の理解をより深めることが可能だ。実際の観察では両者を切り替えたり同時取得することで、目的に沿った情報を効率的に得られる。

今後の展望

強化された検出器設計や多チャンネル化された後方散乱電子検出器が登場しつつあり、高速化や空間分解能の向上が進んでいる。さらに、AIを活用した画像処理技術との連携によってコントラスト補正や自動分類が実用化される見込みもある。SEM技術と検出器の発展が相乗効果を生み、より高精度・高スループットな観察や解析が期待される点は、材料研究や半導体製造プロセスにとって大きなメリットとなるだろう。

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