弾塑性解析
金属材料などが弾性域を超えて塑性変形を生じる領域まで取り扱う解析が弾塑性解析である。弾性解析では荷重除去で元に戻る挙動のみを仮定するが、実機設計では降伏以降の残留ひずみや残留応力、局所座屈や成形限界を評価する必要がある。したがって弾塑性解析は安全率の根拠、軽量化の上限、金型・塑性加工条件、溶接・積層造形後の歪み予測などに必須である。対象は小ひずみから大ひずみ、静的から準静的・粘塑性まで広く、材料法則と数値アルゴリズムの整合が品質を左右する。
基本概念と前提
連続体の全ひずみは弾性ひずみと塑性ひずみに分解する。弾性域ではフックの法則に従い、降伏条件を満たすと塑性流れが始まる。硬化は降伏曲面の拡大(等方硬化)または移動(移動硬化)として表現し、履歴依存性やバウシンガー効果を再現する。大ひずみ問題では回転と伸びの分離、客観性(フレーム不変性)に配慮する。粘塑性(ひずみ速度依存)を含めると時間尺度の影響を表せるが、ここでは速度非依存の古典塑性を中心に述べる。
- 弾性域:応力-ひずみが可逆、ポアソン比とヤング率で記述。
- 降伏:等価応力が基準値に達する瞬間で、以降は不可逆の塑性ひずみが増分的に蓄積。
- 硬化:荷重履歴により降伏応力や降伏曲面の形状・位置が変化。
構成則と降伏条件
弾性は線形等方弾性を用いることが多い。降伏関数にはvon Mises(J2)やTrescaが代表的で、圧力依存材料にはDrucker-PragerやMohr-Coulombを用いる。塑性流動は正規則(法線則)に従い、Prandtl-Reussの式で弾性-塑性分解を行う。硬化則は等方・移動・複合(例:Chaboche)を選択し、疲労前歴や逆変形応答の再現度を調整する。連立の鍵は整合条件(consistency)であり、降伏面上でf=0を保つよう塑性乗数を決定する。
- 等方硬化:降伏曲面半径が拡大し、均一加工硬化を表現。
- 移動硬化:曲面中心が応力空間で移動し、バウシンガー効果を再現。
- 異方性:HillやBarlat則などで板材の方向依存性を取り込む。
有限要素法(FEM)による解法
弾塑性解析は増分-反復法で解く。荷重または変位を小刻みに増分し、各増分内でNewton-Raphson反復により釣合いを満たす。要素の積分点で局所の構成則を積分し、グローバル方程式には一貫接線(consistent tangent)を用いて収束を安定化する。更新ラグランジュ形式やコロテーションで幾何学非線形に対応する。
- 増分設定:荷重経路・ステップ分割・制御量を計画。
- 局所積分:返り写像法で応力更新と塑性内部変数を更新。
- グローバル反復:残差力を最小化し収束判定(力・変位・エネルギー規準)。
返り写像(return mapping)と一貫接線
J2塑性では等方性金属に対し放射返り(radial return)が広く用いられる。まず弾性予測応力を計算し、降伏超過量に応じて応力点を降伏面へ射影する。塑性乗数は整合条件から閉形式または反復で得る。一貫接線はこの局所アルゴリズムを厳密に微分した接線剛性で、Newton法の2次収束を担保し、収束性・安定性・計算効率を大きく改善する。
要素選択と数値安定化
低次完全積分要素は体積ロッキングやせん断ロッキングを起こしやすい。選択還元積分や混合則(圧力-体積ひずみの分離)、B-bar法、hourglass制御を適用して安定化する。接触・摩擦問題ではペナルティやラグランジュ乗数、正則化で貫通や振動を抑制する。メッシュは応力集中部でのh-細分化、あるいはp-高次化を使い、メッシュ依存性を評価する。
材料パラメータの同定
引張試験から得た公称曲線を真応力-真ひずみに換算し、一様伸び以降のネッキング領域は逆解析で補う。0.2%オフセット耐力、塑性域の加工硬化指数、移動硬化の背応力係数などを同定する。多軸実験(ねじり、内圧、平面ひずみ)や硬化則の繰返し試験が再現性を高める。温度・ひずみ速度依存を考慮する場合は粘塑性(例えばPerzyna型)を組み込む。
検証とバリデーション
単軸引張の応力-ひずみ再現、穴あき板引張の応力集中、厚肉円筒の内圧、L型片持ちの曲げなどのベンチマークで局所・大域量を照合する。要素サイズ依存やステップ幅依存を確認し、反力のエネルギー収支、残留応力の整合性、対称条件の保持を点検する。材料試験データとの乖離は硬化則の選択や局所積分の安定化で改善する。
実務上の注意点
荷重経路の非比例性や履歴依存性を踏まえて境界条件を設計する。大塑性では幾何学非線形を有効化し、回転の取り扱いと客観性を確保する。収束難化時は増分縮小、粘性正則化、小さな初期ひずみでのプレコンディショニングが有効である。出力は等価塑性ひずみ、塑性仕事、残留応力、損傷指標などを重視し、溶接・熱処理・成形の後工程シミュレーションに接続する。
応用分野と効果
弾塑性解析は自動車のクラッシュ解析(準静的領域)、圧力容器・配管の局所肉厚設計、プレス成形・曲げ・穴あけの成形限界評価、線材・板材のばね戻り予測、構造骨組の耐震塑性化評価、AM(積層造形)の残留応力低減設計などに広く用いられる。適切な材料同定とアルゴリズム選択により、過大設計の圧縮、試作回数の削減、品質ばらつきの縮小といった実益が得られる。
用語整理(最小限)
等価応力(σeq)、降伏関数f(σ,α,κ)≤0、内部変数α(背応力など)、硬化変数κ、塑性乗数Δλ、整合条件(ḟ=0)、一貫接線(consistent tangent)、返り写像(return mapping)、J2塑性(第2不変量に基づく)などを押さえると、モデル選定と結果解釈が迅速になる。これらの概念が弾塑性解析の数値実装と精度管理の基盤である。