工程FMEA
工程FMEA(Process FMEA)とは、製造工程における潜在的な故障モードを特定し、その影響とリスクを評価して、適切な対策を講じるための手法である。FMEAはもともと航空宇宙産業で開発されたが、その後、自動車産業や製造業全般に広がり、製造工程の品質向上や信頼性確保のために活用されている。
FMEA(DFMEA・工程FMEA・システムFMEA)
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis: 故障モード影響解析)は失敗モードと影響の解析といい、事故やミスの未然防止や品質向上を図る手法である。FMEAには主に3つのタイプがある。製品設計に関するDFMEA(Design FMEA)、工程プロセスにおける工程FMEA(Process FMEA)、システム全体におけるシステムFMEA(System FMEA)がある。工程FMEAは、製造プロセスに関連するリスクの特定と評価に特化している。
工程FMEAの目的
工程FMEAの主な目的は、製造過程で発生しうる問題点や故障モードを予測し、品質不良やトラブルを未然に防ぐことである。これにより、製造コストの削減や顧客満足度の向上が図れる。また、工程ごとの潜在的リスクを評価することで、改善すべきポイントを明確にし、優先的に対策を講じることができる。
工程FMEAのプロセス
工程FMEAは、故障の影響、故障の原因、現在の管理策、リスク優先度数(RPN)の5つの要素で構成されている。まず、各工程における故障モードを特定し、そのモードが最終製品や次工程にどのような影響を与えるかを分析する。次に、その故障の発生原因を特定し、現在の管理策で十分に対策が取られているかを評価する。そして、リスクの大きさを「発生頻度」「影響度」「検出可能性」の観点から評価し、RPNを算出して優先的に改善すべき項目を明確にする。最後、算出した工程FMEAについて関係者を集め、デザインレビューとフォローアップを行う。
故障の影響
工程FMEAは、解析対象となる工程(製造プロセス)を選定する。一般に優先度の高い、あるいは故障復旧性が悪い製造プロセスを中心にサブ製造プロセスを選ぶ。次に、選定した工程(製造プロセスの機能)を列挙する。一般的には詳細なフローダイアグラムを作成して表現される。このダイアグラムは、各工程ステップの流れや関係性を視覚的に示し、分析の準備を行う
故障の原因
次に各工程ステップにおいて、発生しるう故障の原因(潜在的な故障モード)を特定する。故障モードとは、その工程で発生する可能性のある不具合や故障のことで、故障モードを抜けなく抽出し、優先順位の高いものを振り分ける。同時に特定した故障モードが製品や顧客に与える影響を評価する。この評価には、影響の重大度(Severity)、発生頻度(Occurrence)、検出可能性(Detection)の3つの要素が考慮される。
現在の管理策
故障の原因について、現在の管理策を確認し、今すぐ対策すべきか、優先度が低いものか、十分対策されており現状維持が適切なものかを判断する。
RPN(リスク優先度数)
RPN(Risk Priority Number,リスク優先度)は、リスクの大きさを数値化するための指標である。影響の評価結果をもとにしたリスク算出方法で、「発生頻度」「影響度」「検出可能性」の3つの評価項目にそれぞれ1~10の点数をつけ、その積をRPNとして算出する。RPNが高いほどリスクが大きいことを示し、優先的に対策を講じる必要がある。発生頻度が高く、影響が大きく、検出が難しい場合は、特に注意が必要である。この段階では、対策の効果を確認するためのフォローアップも重要である。
RPNの計算式の一例
RPN = 影響度 × 発生頻度 × 検出難易度
デザインレビュー(DR)
工程FMEAを終えると、実施した対策のデザインレビューを実施し、その効果について議論する必要がある。不十分な場合はもう一度、工程を繰り返し、十分であれば次の製造プロセスを選定する。継続的に行われ、製造工程の改善に寄与する。
メリットとデメリット
工程FMEAのメリットは、製造工程での潜在的な問題を事前に特定し、対策を講じることで、品質不良の防止やコスト削減が可能になる点である。また、リスク評価を数値化することで、客観的に優先順位をつけることができる。しかし、デメリットとしては、FMEAの実施には多くの時間とリソースが必要であり、特に初期段階では膨大な情報を収集しなければならないため、負担が大きくなることが挙げられる。
工程FMEAの成功事例
自動車産業における成功事例として、製造ラインでの不良率が大幅に改善された例がある。ある企業では、FMEAを実施した結果、特定の工程での故障モードが多発していることが判明し、すぐに対策が講じられた。その結果、不良品の発生率が著しく低下し、製造コストの削減と納期の短縮が実現した。