変調器
変調器は、信号の周波数や位相、振幅などを制御し、通信や計測などで用いられるデバイスである。単純な例としては、アナログ信号の周波数変調(FM)や振幅変調(AM)、デジタル信号のQPSKやQAMなどが挙げられる。通信分野では、搬送波に情報を載せる際に欠かせない存在で、効率の良い伝送や多チャンネル化を実現する要になる。特に光通信の分野では、電気信号を光信号に変換するための光変調器が高い注目を集めている。高周波領域まで扱う高速通信で、どのように変調を行うかがシステム全体の性能を左右する。近年は半導体技術の発達によって小型化と高機能化が進み、シリコンフォトニクスやInP(Indium Phosphide)などのプラットフォーム上で集積化された変調器が実用化され始めている。
変調の基本概念
変調とは、ある基準信号(搬送波)のパラメータを変化させることで情報を付与する操作を指す。搬送波は、伝送路での損失や雑音を考慮し、効率的に情報を運べる特性を持つ周波数帯を選択することが多い。アナログ変調の場合は信号の振幅を変化させるAM、周波数を変化させるFM、位相を変化させるPMなどが代表的であり、用途や使用帯域によって使い分けられている。デジタル変調はビット列を複数の状態にマッピングし、搬送波にそれらを反映することで高速・高効率な通信を可能にする。QAMやPSKなどは高い伝送レートを維持しながら帯域を有効利用できる手法として広く採用されている。
アナログ変調とデジタル変調
アナログ変調は音声や映像など連続的な信号をそのまま変換するのに適しているが、雑音に弱く復調時の精度を高めることが難しい。一方、デジタル変調はビットの「0」「1」といった離散的な信号を扱うため雑音耐性が高く、多値化によって大量の情報を一度に送ることが可能になる。多値QAMのように変調方式を高度化すれば伝送速度を向上できるが、信号処理が複雑化する傾向がある。実際の通信システムでは、伝送路の特性や必要な帯域幅に応じて最適な方式を選択することが重要になっている。
6L6GCプッシュプルAM変調器。キャリア50WのAMを変調できる。昔ながらの真空管セットで昔ながらのAMを送信する喜び🥹 pic.twitter.com/mH4blUWmli
— JH8SST/7 🇺🇦 (@JYATSUYANAGI) January 15, 2025
変調器の役割
変調器は入力となるベースバンド信号と搬送波を組み合わせ、変調された出力信号を生成するデバイスである。電気回路やDSP(Digital Signal Processor)によるベースバンド信号の生成・加工を経て、変調器で搬送波に重畳させる流れが一般的である。RF(Radio Frequency)帯の通信だけでなく、赤外線や可視光帯を利用する光通信でも同様に変調が行われるが、その際には光変調器と呼ばれるデバイスを使用する。電気的変調器と光学的変調器では基盤技術が大きく異なるため、選択するパラメータや設計指針も異なる点に注意が必要である。
光変調器の特徴
光変調器は電気信号から光信号への変換や、既存の光信号の強度・位相・偏光を制御するために用いられる。電気信号からの直接変調方式ではレーザダイオード自体の駆動条件を変化させて光出力を制御することが多いが、周波数応答や雑音特性に制限がある。一方、外部変調方式ではマッハツェンダ変調器(MZM)などを用いて独立した光路で変調するため、高速かつ雑音特性の優れたシステムが組める。光通信に限らず、光周波数コムや光計測技術など、精密かつ高速な光変調が求められる場面で活躍している。
光変調器を超省エネ化し、高速高効率な光トランジスタを実現~光電子融合型の超低消費エネルギー・高速信号処理へ前進~ | NTT 2019年4月16日https://t.co/OnIIo2nw2i https://t.co/j8hdxAZmiS pic.twitter.com/ednrJOAp5g
— Tulipmania (@FlukeTYO) February 25, 2024
マッハツェンダ変調器(MZM)
マッハツェンダ変調器(MZM)はマッハツェンダ干渉計の原理を応用し、光路の位相差を電界で制御することで、出力光の振幅や位相を変調する外部変調器である。半導体材料の電気光学効果を利用するため、設計する波長帯に合わせた結晶構造や薄膜プロセスが重要になる。高速応答が得られる一方、電圧の制御範囲や挿入損失、チャープ特性などを総合的に考慮する必要がある。シリコンフォトニクスでは、シリコン基板上にMZM構造を形成しCMOSプロセスとの親和性を高める取り組みが進んでいる。
おはマッハツェンダ
超高速マッハツェンダ型光変調器
光電融合として光を制御する技術。有機物による 200GHz 超広帯域マッハツェンダ型光強度変調https://t.co/qCArkE0Ak6
超高速・大容量光伝送を実現する高速高精度 光変調技術https://t.co/kJvCk0DaLN#おはようVtuber #あおさんの通信セミナー pic.twitter.com/j511hb8Dup
— 通信の猫@ID=AO (@ID_JAPAN_AO) November 7, 2024
アコースト光学変調器(AOM)
アコースト光学変調器(AOM)は音波によって生じる回折格子を利用し、光ビームの強度や周波数を変調するデバイスである。結晶に超音波を与えると、音波の圧力によって屈折率分布が周期的に変化し、それが回折格子の役目を果たす。高い周波数変調が可能だが、大きな駆動電力や複雑な光学配置が必要になる場合もある。工業用レーザのパワー制御や高精度光計測など、特定の用途に適しているため、限定的ではあるが不可欠な技術として活用されている。
音響光学変調器(AOM)によって回折して複数に分割されたレーザー光。人間の目にはすべて同じ色に見えるけど実は微妙に色(周波数)が違う。見た目は綺麗だけど調整するのが結構めんどい。 pic.twitter.com/F6TP1BAfhk
— K. Shijo (@PhD_KShijo) November 11, 2014
変調器の応用と課題
変調器は無線通信から光通信、さらには計測やセンサ技術にも応用が広がっている。例えば、5Gや6Gなどの超高速通信での高次変調は、基地局と端末間の大容量データ伝送を実現する鍵となっている。また、光変調器は光ファイバネットワークや量子通信、LiDARなどの分野でも重要視されており、より低消費電力で高帯域幅を実現するための新材料や新構造が模索されている。ただし、高速化と集積化を追求すると、熱雑音や回路間干渉などさまざまな課題に直面することが多く、製造プロセスやデバイス設計の最適化が今後も求められるだろう。
産業・研究分野への影響
変調器の進化は産業界や学術研究に大きなインパクトをもたらしている。高品質な変調器を用いることで、既存の通信インフラの性能を飛躍的に向上させられるだけでなく、新しい波長帯や遠赤外領域の開拓にもつながる。大容量データ通信が求められるクラウドやデータセンターにとっては、電力効率やシステム信頼性の改善が急務であり、変調器のさらなる高速化と省電力化が技術のボトルネックを解消する要となる。研究機関でも、光コヒーレント通信や量子暗号通信の実験において、先進的な変調技術が多くのブレークスルーをもたらしている。