圧電
圧電は、物質に機械的な力(圧縮や引張、曲げなど)を加えた際に電荷が発生する現象、あるいは逆に電圧を加えると物質が変形する現象を指す。こうした特性は「圧電効果」と呼ばれ、センサーやアクチュエータの分野をはじめ、多様な産業分野で幅広く応用されている。結晶構造が非対称な一部の材料では、外部からの機械的ストレスによって電気双極子が整列し、誘電分極が変化することで電気エネルギーを取り出せるのが大きな特徴だ。圧電効果が発見されて以来、高感度な超音波検査機器や自動車の点火プラグなど、最先端の技術開発を支えてきた要素技術として欠かせない存在になっている。
圧電効果の原理
結晶構造が中心対称性を欠く物質では、外部から変形を加えられると結晶内部で正負電荷の重心がずれ、表面に電荷が発生する。これが「正圧電効果」と呼ばれる現象だ。逆に、電圧を加えると結晶が伸縮や曲げ変形を起こす「逆圧電効果」も存在する。これら2つの効果は同じ結晶構造に起因しており、力と電気エネルギーを相互変換できる点が圧電材料の最大の利点といえる。
代表的な圧電材料
圧電効果を示す材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が最も広く知られている。これは強誘電体の一種で、大きな誘電分極を持つため、高い圧電特性が得られる。また、鉛フリーのナトリウム・ビスマス系セラミックスやニオブ酸リチウムなど、環境負荷を抑えた材料の研究も進んでいる。結晶性の高い単結晶である石英(SiO2)やタンタル酸リチウムは温度特性が安定しており、周波数制御用の共振子などに多用されている。
圧電センサーとアクチュエータ
圧電効果を用いたセンサーは、振動や衝撃を電気信号に変換するのが得意で、加速度計や超音波トランスデューサとして頻繁に利用される。一方、逆圧電効果を応用したアクチュエータでは、電圧を印加すると微小変形が生じるため、高精度な位置決めやバルブ制御が可能になる。スマートフォンの振動通知機構やインクジェットプリンタのヘッドなど、身近な機器にも圧電アクチュエータの原理が活かされている。
応用例
圧電センサーとしては、超音波診断装置のプローブやソナーシステムの送受信機などが代表的だ。さらに、建築構造物の振動モニタリングや自動車エンジン内の圧力計測など、多様な業界で用いられている。アクチュエータとしては、光学系のレンズ調整やファイバのピッチ制御にも使われ、ナノメートルオーダーの精密駆動が可能になる。また、エネルギーハーベスティングの分野では、床の振動や機械の動きを電力に変換する小型発電デバイスへの応用が期待されている。
医療分野での利用
圧電効果は医療機器にも数多く応用される。超音波メスや超音波診断機器は、圧電振動子で発生させた超音波を利用して組織の切開や画像化を行う。さらに圧電ポンプは小型・軽量かつ無菌設計がしやすく、点滴ポンプなどの医療装置にも組み込まれている。骨伝導の技術にも圧電材料が活用され、難聴者向けの補聴器などに応用される例もある。