伝導帯|電子が自由に運動できる高エネルギー帯

伝導帯

伝導帯は、半導体や金属などの固体中で電子が自由に運動できるエネルギー帯のことだ。物質のエネルギーバンド構造において、電子が存在できる状態が密集して形成された帯をバンドと呼び、伝導帯は特に高エネルギー側に位置している。半導体の場合は絶縁体ほど広いバンドギャップを持たず、室温付近の熱エネルギーやドーピングによって一部の電子が伝導帯へ励起され、電流を担うキャリアとして振る舞う。エネルギーが不足している状態では、伝導帯がほとんど空のままであり、電子の移動が制限されるため導電率は低いが、十分なエネルギーが与えられると電子が活発に動き出し、物質全体の電気伝導に大きな影響を与える。

バンド構造とエネルギーバンド

固体中の電子状態は、離散的な軌道エネルギーではなく、連続体としてのバンド構造を形成する。結晶格子をなす原子同士の相互作用により、多数の電子準位が密集した帯(バンド)が生まれる。エネルギーの低い順に価電子帯(valence band)と伝導帯(conduction band)が存在し、その間をバンドギャップが隔てている。金属ではバンドギャップが事実上存在せず、価電子帯と伝導帯が重なっているため電子は自由に移動しやすい。一方、絶縁体ではバンドギャップが大きく、常温では電子が伝導帯に到達しにくい。この中間的な特性を示すのが半導体であり、バンドギャップが比較的狭いため、熱励起やドーピングなどによって伝導帯への電子遷移が生じやすい。

伝導帯と電子の自由度

伝導帯に励起された電子は、結晶内を自由に運動できる高いエネルギー状態にある。半導体中では、価電子帯にいる電子は結合に束縛されて動きが制限されるが、エネルギーを得て伝導帯に移った瞬間、結晶中を比較的自由に移動し、電流を担うキャリアとなる。これに対し、価電子帯の電子が空いたところには正孔と呼ばれる擬似的な正の電荷が生じ、これらもまたキャリアとして電流に関与する。伝導帯の電子と価電子帯の正孔は協調して半導体の導電特性を決定づける要因となっている。

フェルミ準位とキャリア濃度

物質のエネルギー状態における電子の配置を理解する上で重要なのがフェルミ準位だ。これは0Kにおいて電子が占有する最高エネルギーレベルと考えられ、有限温度では電子の統計的分布を示す基準点として機能する。半導体ではフェルミ準位の位置によって、伝導帯や価電子帯にどの程度の電子や正孔が存在できるかが左右される。ドーピング(不純物添加)を行うと、フェルミ準位が上下にシフトし、伝導帯に近い位置へ移動すればn型、価電子帯側に近い位置へ移動すればp型となり、キャリア濃度が大きく変化する。

温度依存性と伝導特性

半導体の導電率やキャリア濃度は温度によって大きく変動する。室温以上になると、熱エネルギーによって一部の電子が価電子帯から伝導帯へ励起され、電流を流せるキャリア数が増加する。そのため低温では半ば絶縁体のように振る舞っていた物質が、高温になると導体に近い特性を示す場合がある。この特性を利用して、温度センサーやサーミスタなど、温度変化を検出する素子が開発されている。ただし高温すぎる環境では結晶構造の乱れが大きくなり、キャリアの散乱も増えてくるため、結果的に抵抗が増加することもある。

バンドギャップ工学と材料設計

伝導帯と価電子帯の間隔(バンドギャップ)を自在に制御する技術は、半導体材料の性能向上に直結する。異なるバンドギャップを持つ材料を積層して量子井戸やヘテロ構造を形成すると、電子や正孔の動きを制御でき、レーザーダイオードや高感度イメージセンサーなど高機能素子が実現可能だ。また、エネルギーバンド構造を改変する方法として応力(ストレイン)を与える手法も知られ、SiGe合金などで転移歪を利用し、高速トランジスタや高効率太陽電池の開発が進められている。

応用例と将来展望

伝導帯内の自由電子制御は、トランジスタや集積回路はもちろん、光電子デバイスやパワーデバイスなど多様な分野で要となっている。例えばLEDでは、電子と正孔の再結合を効果的に行わせるためにバンド構造を精密に設計し、所望の発光波長を得ている。パワー分野でもSiCやGaNといったワイドバンドギャップ半導体が注目され、従来のSiよりも高耐圧かつ低損失なデバイスが作られている。今後は量子コンピュータやスピントロニクスなど新たな概念のデバイス設計にも応用領域が広がり、伝導帯の役割はますます重要度を増していくと考えられる。

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