マスティンバー|大規模木造建築を支える複合木材技術

マスティンバー

マスティンバーとは、主に大規模な木造建築を可能にするための複合木材技術を指す用語である。複数の層を接着や圧縮などで一体化させることで、高い強度と安定性を得られる点が特徴であり、鉄骨やコンクリートに替わるサステナブルな建築素材として注目されている。建築物の高層化や都市開発が進む中で、環境負荷低減や森林資源の持続的利用など、社会的課題を同時に解決するポテンシャルが高いと期待される分野でもある。

定義

マスティンバーは英語で「mass timber」と呼ばれ、グルーラム(Glulam)やクロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)などの複数の木材を積層・接着して大断面化した製品の総称である。従来の無垢材では困難だった高強度と寸法安定性を実現できるため、高層建築や大スパンを要する構造物にも適用しやすいとされる。素材そのものが木材の温もりやデザイン性を保持しつつ、コンクリート建築に匹敵する耐荷性能を得られる点が画期的といえる。

特徴

強度と軽量性を両立していることがマスティンバーの大きな特徴である。木材独自の繊維構造が外力を効果的に吸収し、曲げや引っ張りに対しても優れた抵抗力を示すため、建築設計において自由度が増す利点がある。また、木材は熱伝導率が低いため、一定の厚みがあれば熱に弱い部分が比較的保護される。内部に空隙をつくらないように加工することで、各種設備との取り合いをスムーズに行う設計も可能となっている。

耐火性

マスティンバーは表面が炭化層を形成し、内層を保護することで火災時の構造強度を比較的長く維持できる特性がある。コンクリートや鉄骨に比べると燃焼するイメージが強いが、実際には一定の断面厚を確保することで所定の耐火性能を達成しやすいとされる。近年は実大火災実験や計算モデルの進歩により、火災時における積層材の炭化速度や残存強度を高精度で算出できるため、高層建築への応用事例が増加しつつある。

耐震性

木材は一般的に重量が軽く、強度に対して質量が小さいという特性を持つため、地震動による慣性力を抑えやすいとされる。さらにマスティンバーでは積層方向を工夫することにより、強度や剛性を向上させつつ適度な変形能力も確保できる。国内では大地震を想定した実験が進められ、構造体として十分な耐震性能を示す例が報告されている。金物接合やハイブリッド構造などを組み合わせることで、さらなる安全性の向上が期待される。

活用事例

欧米やオーストラリアなどでは、高層ビルや大型公共施設にマスティンバーが盛んに導入されている。例えばカナダのブリティッシュコロンビア大学に建設された18階建ての学生寮は、世界的に知られた高層木造建築の事例として注目を集める。また、ヨーロッパの都市部においては住宅やオフィスビルへの採用が増え、スピーディーな施工と環境負荷の低減を同時に実現している。日本でもCLTを中心とした実証プロジェクトが進められ、自治体や民間企業が共同で建築物の試作や研究を進行中である。

サステナビリティ

森林資源を循環利用できることはマスティンバーの大きな利点である。木材の成長過程で二酸化炭素を吸収し、建築物として利用する間は炭素を固定できるため、ライフサイクル全体を通じて温室効果ガスの排出を削減する効果がある。さらに、森林の適切な管理や再植林を行うことで、生態系の維持や地域経済の活性化にもつながる。こうした面から、脱炭素社会を目指す国際的な潮流の中で大いに注目されている技術といえる。

課題

マスティンバーはまだ一般的な建材と比べれば新しい分野に属するため、規格や法整備が十分に整っていない地域も存在する。耐火や耐震などの性能評価方法が標準化されつつある一方で、行政手続きや建築確認をスムーズに行うためのガイドライン整備が急務とされる。また、大断面の木材を生産するためには、高品質な原木の安定供給や接着剤の安全性など多角的な視点での管理が求められる。サプライチェーン全体を持続可能に運営するには、業界を横断した連携体制の強化が不可欠とされる。

注意点

マスティンバーの構造計画には専門的な知識や高度な設計技術が欠かせない。木材特有のクリープ(長期的な変形)や含水率の管理など、適正な施工計画がなければ思わぬ不具合を引き起こす可能性がある。さらに、輸送コストや現場での取り扱いも考慮する必要があり、適切な保管環境と施工時期の選定が重要となる。各種性能を満たすためには実証実験に基づいた科学的な根拠が必要であり、設計者や施工者、行政が一体となって知見を共有することが求められる。

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