ブラッグ反射
ブラッグ反射とは、結晶構造や周期的な層構造の内部で入射光やX線が特定の面間隔と干渉を起こすことで、ある方向に光や電磁波が強められながら反射される現象である。結晶の格子間隔や波長との整合条件によって起こる干渉効果を利用し、物質内部の構造解析や光学部品の設計など広範な分野で応用されている。レントゲン回折やフォトニック結晶の基本原理としても知られ、ナノメートルレベルのきわめて精密な周期構造を持つ素材において重要な役割を果たす。
概要
ブラッグ反射の現象は、X線回折の分野で初めて系統的に研究されたが、可視光や赤外領域など幅広い周波数帯でも同様の効果が観察される。結晶内部には、規則正しい格子面が複数存在し、これらの面間隔が入射波長と一定の幾何学的条件で合致すると、反射光が位相のずれなく強め合う。この干渉効果によって特定の方向に強い反射が生じるため、反射スペクトルに鋭いピークが現れる点が特徴である。この原理を利用して、結晶の正確な面間隔を測定したり、フォトニック結晶では光の伝搬経路を制御したりする応用が広がっている。
原理
ブラッグ反射は、結晶面の間隔をd、入射角をθ、波長をλとしたとき、2d sinθ = nλ (nは整数)という条件を満たすときに起こる。これは結晶中の格子面からの反射光が同相で重なり合い、干渉によって特定の方向に光が強められることを示す式である。もし面間隔や波長、入射角の組み合わせがずれると、位相がずれて干渉が打ち消し合い、反射は顕著にならない。この干渉の起源は、個々の結晶面で反射された波動が互いに重なり合う際、波長と幾何学配置が適合すると位相が揃うためであり、結晶構造解析では不可欠な理論的基盤とされる。
応用
X線結晶構造解析では、試料の格子定数を決定するためにブラッグ反射の条件を利用する。実験では回折角を精密に測定し、回折ピークの強度分布から原子配列を推定する手法が確立されている。また、フォトニック結晶や分布ブラッグ反射鏡などの先端光学素子では、屈折率の異なる薄膜を周期的に積層し、特定波長の光を反射させるために同原理が用いられる。これらのデバイスはレーザ共振器のミラーや波長フィルタに応用され、光通信やセンサ技術など多岐にわたる分野で重要性を増している。
技術的背景
ブラッグ反射を利用した分布ブラッグ反射(DBR: Distributed Bragg Reflector)では、屈折率の異なる二つ以上の材料を交互に積層することで、入射光が各境界面で干渉を生じ、結果として狙った波長帯を選択的に反射できる。実際の設計では膜厚や屈折率の組み合わせが微小な誤差でも反射帯域や中心波長に大きな影響を与えるため、ナノメートルオーダーでの厳密な制御が必要となる。高反射率を得るためには多層数を増やすことになるが、膜厚ばらつきや応力の蓄積も増大するため、製造プロセスの最適化が課題とされる。
結晶性材料とブラッグ反射
結晶性材料の中でも、半導体結晶や金属酸化物結晶はよく定まった格子面を持つため、X線回折や中性子回折を用いた構造解析の対象となってきた。ここでのブラッグ反射ピークの位置と強度を調べることで、結晶の対称性や面間隔だけでなく、欠陥密度や応力分布なども推定可能である。また近年は、二次元材料や薄膜材料の評価にも拡張され、例えばグラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの原子層物質の結晶品質評価に有用な技術として活用されている。こうした構造評価はデバイス開発や新素材研究において欠かせない手段となっている。