ビアジェ(不動産)|高齢者の居住保障と投資ニーズを結ぶ仕組み

ビアジェ(不動産)

ビアジェ(不動産)とは、高齢者が自身の所有する不動産を売却しつつ、生存中は安定的な収入を得るために利用される仕組みである。契約時の年齢や物件の条件に応じて売買価格と年金の支払いが決まり、売却後も一定の条件で居住を継続できる特徴がある。本稿ではその成り立ちからしくみ、メリットとリスク、そして日本での導入例や法的論点までを概観し、高齢化社会における新たな資産活用策としての可能性を探っていく。

概念

フランス語の“viager”が語源とされるビアジェは、高齢者が終身で年金を得る目的で不動産を売却する手法としてよく知られている。売却時点で買主は一部の頭金を支払い、その後、売主が生存する限り定期的に年金を支払うことが一般的である。売却後も売主が住み続けることを許容する契約が多く、これは高齢者にとって住居確保と安定収入の両立が可能な仕組みといえる。逆に買主は比較的低い初期費用で物件を取得でき、売主の生存年数が短ければ投資効率が上昇する可能性がある一方、長寿リスクを負う点が特徴とされる。

歴史

ビアジェの起源は18世紀頃のフランスにさかのぼるといわれる。土地や建物をめぐる売買において、金銭の一括払いを困難とする状況や、高齢者を支援する意図などさまざまな背景から誕生した制度である。フランス革命後の社会変革期にも用いられ、特に農村部などでは世代間の財産移転をスムーズに行う手段として浸透していったとされる。その後、都市部にも普及し、高齢化が進む近年まで長きにわたって運用され、社会的にも広く認知されている。

しくみ

一般的なビアジェ取引では、まず売却時に頭金となるブケ(bouquet)を買主が支払い、売主はその対価として所有権を移転する。ただし契約内容によっては、売主が死亡するまで住み続ける権利である「居住権」が設定されることが多い。その後、買主は売主が生存している間、定期的に年金を支払う義務を負う。この年金額や期間は売主の年齢や統計的な余命などを踏まえて算定される。ここで買主が負うリスクは「売主が長生きすれば支払いが増える」という点であり、売主にとっては「予想を超える長寿によって収入を得続けられる」という安心感につながる仕組みといえる。

メリットとリスク

売主側のメリットとしては、一括売却せずとも安定的な現金収入と住まいを同時に確保できる点が挙げられる。一方で買主側は、初期費用を抑えつつ将来の不動産取得が見込める可能性がある。しかし、売主の余命が想定より長くなると買主が支払う総額が増えるリスクがあり、反対に余命が短い場合は売主が受け取る年金が少なくなるなどの不公平感が生じうる。また契約解除や居住権の取り扱いなど、当事者双方にとって慎重な契約設計が必要となる。

日本への導入事例

日本ではリバースモーゲージや定期借地権付き住宅など、高齢者の生活資金確保を目的とした仕組みが存在するが、ビアジェそのものは欧州ほど一般的ではない。一部の金融機関や不動産事業者が類似のスキームを提供し始めており、資産の少ない高齢者や子どもがいないケースなどで注目されている。高齢化に伴って自宅から安定収入を得たいというニーズは高まると考えられるため、今後はさらなる普及の可能性があるといえる。

法的・税制上の論点

ビアジェを日本で行う際には、まず不動産取引にかかる税制や売買契約の法的安定性が大きな検討事項となる。契約書では、居住権をはじめとする各種権利の明確化が不可欠であり、争いが生じないよう緻密な条項設計が求められる。また贈与税や相続税との関連にも注意が必要である。特に売主が生存中に得る年金収入の取り扱いは雑所得となるケースも想定され、税務面での負担や控除の可否などを慎重に判断する必要がある。

活用の展望

超高齢社会に突入した日本では、公的年金や貯蓄だけでは十分な生活資金を確保できない高齢者が増加しつつある。そこで柔軟な資金運用手段として期待されるのがビアジェであり、自宅を売却しつつも住まいを確保できるメリットは大きいといえる。地方創生や世代間の資産移転を円滑化する観点からも、この仕組みを発展させる意義は十分にある。今後はより幅広い層にとって魅力的な選択肢として認知されることが期待される。

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