バーゼルI
バーゼルIとは、1988年にバーゼル銀行監督委員会(BCBS)によって策定された、国際的な銀行資本規制の初期版であり、銀行の自己資本比率に関する基準を設けた規制枠組みである。この規制は、国際的に活動する銀行が十分な自己資本を保有し、金融システム全体の安定性を確保することを目的としている。バーゼルIは、銀行のリスク資産に対して一定の自己資本を保有することを求めており、国際的な銀行規制の基礎となった。
バーゼルIの背景
バーゼルIは、1980年代の金融危機や銀行破綻が世界的に増加したことを受けて策定された。特に、大手銀行の倒産が各国経済に与える影響を考慮し、国際的に統一された銀行資本規制が必要とされた。このため、バーゼル銀行監督委員会が主導して、銀行の自己資本比率に関するルールが制定され、各国の銀行がこれに従うことを義務付けた。
バーゼルIの主な内容
バーゼルIは、銀行の自己資本比率を規定し、特にリスクの高い資産に対する自己資本の確保を求めることが特徴である。主な内容は以下の通り:
- 自己資本比率の規定:銀行は、リスク加重資産に対して最低でも8%の自己資本を保有することが義務付けられた。この8%のうち、少なくとも4%は「コア資本」として普通株式や利益剰余金などが充当され、残りの4%は「補完資本」として債券などが認められた。
- リスク加重資産の分類:バーゼルIでは、銀行が保有する資産をリスクに応じて分類し、リスクが高い資産に対してはより多くの自己資本を保有する必要があると定めた。リスクの低い国債や現金は0%のリスクウェイトが適用され、商業ローンや住宅ローンなどは50%から100%のリスクウェイトが割り当てられた。
バーゼルIの意義
バーゼルIは、銀行の自己資本比率を明確に規定することで、金融機関の健全性を高め、金融システム全体の安定性を確保する重要な役割を果たした。また、各国の規制当局が共通の基準を採用することで、グローバルな銀行業務の健全性を確保し、国際間での銀行規制の統一が図られた。これにより、特に多国籍企業や国際的な金融取引に関わる銀行にとって、より一貫したルールが適用されるようになった。
バーゼルIの限界
バーゼルIは銀行規制に大きな貢献をしたが、いくつかの限界も指摘された。主な問題点として、リスク加重資産の分類が単純化されすぎていることが挙げられる。たとえば、同じカテゴリの資産であっても、リスクプロファイルが異なる場合に適切な資本が求められないことがあった。また、リスク管理の複雑さが増すにつれて、バーゼルIの基準では不十分とされ、より柔軟で精緻なリスク管理が必要とされた。
バーゼルIの後継規制
バーゼルIの限界を補うために、2004年にはより高度なリスク管理を求める「バーゼルII」が導入された。バーゼルIIでは、信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクをより精密に評価し、リスクベースの資本規制が強化された。その後、2008年のリーマンショックを受けて、バーゼルIIIが策定され、さらに資本の質や流動性リスクに対する規制が強化された。