ハーフトーン型位相シフトマスク
ハーフトーン型位相シフトマスクとは、フォトリソグラフィ工程で微細なパターンを高解像度かつ高コントラストで形成するために利用される特殊なフォトマスク技術である。位相干渉を巧みに制御しながら光の透過量を抑えることで、ラインエッジの精度向上や解像限界の拡大が可能となり、先端半導体デバイスや高集積回路の微細化を支援する重要な役割を担っている。通常の位相シフトマスクに比べ、グレースケールのように透過率を段階的に設定する手法を組み合わせることで、マスク設計の柔軟性が増し、生産性や歩留まりの向上にもつながっている。
概要
ハーフトーン型位相シフトマスクは、従来の光リソグラフィで用いられるクロムマスクに対して、異なる位相シフト層や透過率を持つ部分を組み合わせた構造を採用している。通常の位相シフトマスクでは、光の位相を反転させる領域と通過させる領域を切り分け、隣接するパターン間で光の干渉効果を利用して解像度を向上させる仕組みを用いる。一方、本方式ではさらに透過率をコントロールし、パターンエッジ部の光強度分布を最適化することで、より均質かつシャープなライン形成を狙える設計になっている。
基本的な原理
位相シフトマスクでは、フォトレジスト上に生成される光の干渉模様を利用し、パターンの輪郭を従来よりも明確にする。これに対しハーフトーン型位相シフトマスクでは、一定の透過率を持つ薄膜層を敷くことで、光の振幅も制限しながら位相シフトを行う点が特徴的である。具体的には、光の強度が極端に高くならないよう抑制しつつ、隣接する位相シフト領域との干渉によって不要なサイドローブやノイズを削減し、高精度のパターン形状を得られるようになっている。結果として、細線パターンの線幅均一化やエッジシェイプの滑らかな制御が可能となり、微細化の限界を押し広げる効果が期待される。
利点
ハーフトーン型位相シフトマスクの利点としては、高解像度の追求だけでなく、レイアウト設計の自由度が増す点が挙げられる。通常の位相シフトマスクの場合、位相境界を設計する際に複雑なルールを考慮しなければならないが、ハーフトーン効果を組み合わせることでパターンの段階的な透過調整が可能となる。その結果、パターン間の干渉を制御しやすくなるだけでなく、微細パターンの寸法マージンを確保しやすいというメリットが得られる。また、位相シフト量や透過率を変えた複数の薄膜層を組み合わせることで、複雑な図形や狭ピッチパターンでも精度を損なうことなく作製しやすくなる。
製造プロセスへの影響
リソグラフィ工程全体で見ると、ハーフトーン型位相シフトマスクは通常の多層レジストやダブルパターニング技術とも親和性が高い。一方で、マスク自体の作製工程は高い精度の薄膜成膜とエッチング制御が要求され、コストも上昇しやすい傾向がある。しかし、マスクの高精度化によって露光工程での線幅誤差を低減できれば、最終的なデバイス歩留まりの向上や設計ルールの微細化に対応しやすくなる効果がある。加えて、従来ならば大がかりな多段露光や修正レイヤが必要だった工程を省略できる場合もあり、結果的に総合的なコストパフォーマンスが向上するケースもある。
応用分野
半導体デバイスではロジックICやメモリなどの微細化が進むほど、露光装置側の数値絞り(NA)向上や短波長化(EUVなど)に加えて、マスク技術の高度化が要求されている。特にDRAMのような極めて細いラインパターンを均一に形成する用途や、高性能CMOSのゲートパターン成形などでハーフトーン型位相シフトマスクが活用される事例が多い。またFPD(Flat Panel Display)やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)分野でも、高精細化や微小寸法を必要とする工程において同技術を利用する動きが広がっている。