デルタシグマ型A-D変換器|計測や音響で高精度を実現

デルタシグマ型A-D変換器

デルタシグマ型A-D変換器とは、アナログ信号デジタル信号に変換する際に、サンプリング周波数を大幅に高く設定し、量子化誤差をノイズシェーピング技術で低減する手法を用いる変換器である。音響機器や計測機器など、広いダイナミックレンジと高精度が求められる分野で広く用いられており、低ビット量子化とオーバーサンプリングによってアナログ信号の微小な変化を精密に捉える特徴がある。この技術は回路規模や演算処理の負荷増大を伴うが、それを上回るメリットが得られるため、多くの高性能機器に採用されている。

概要

デルタシグマ型A-D変換器の基本構成は、デルタ変調ブロックとデジタルフィルタからなる。まず入力アナログ信号を低ビットで量子化し、その誤差情報をフィードバックすることでノイズを周波数帯域外へ追いやる仕組みを採用する。サンプリング周波数は従来のNyquist変換器に比べて数倍から数十倍程度高く、量子化ビット数を抑えながらも高い分解能を得られるという利点がある。このような構成によって、雑音レベルを可聴帯域や目標帯域の外側に移動させることが可能となり、最終段のデジタルフィルタで不要な周波数成分を削ぎ落とすことで精度の高いデジタル信号を得る。

原理

デルタシグマ型A-D変換器の原理を支えるのがノイズシェーピングと呼ばれる技術である。通常、A-D変換器で生じる量子化誤差は変換器の全帯域に広く分布するが、デルタシグマ方式では高サンプリングレートとフィードバックループによって誤差を特定の周波数帯域へ偏らせる。これにより、目的の帯域内のSNR(Signal to Noise Ratio)が大幅に向上する。具体的には、1ビット量子化器の場合でもサンプリングを極端に高速化すれば、フィードバックの効果で有効ビット数が実際よりも高いレベルを実現する。結果として、アナログ前段の設計をシンプル化しつつ高精度の変換を行うことができる。

利点

デルタシグマ型A-D変換器の最大の利点は、高精度と広ダイナミックレンジを得られる点である。音響分野では、微小レベルから大音量まで忠実に取り込み、繊細な音質を再現することが可能となる。また、計測器や医療機器などでは微小電圧や電流を高精度で測定できるため、解析の信頼性を高めることにも寄与する。さらに、低ビット量子化を前提とする構成は実装の自由度を高め、最終的にはデジタルドメインでの演算処理に置き換えられる部分が大きいことから、回路設計の柔軟性や拡張性にも優れているといえる。

応用分野

デルタシグマ型A-D変換器は、Hi-Fiオーディオ機器や録音スタジオ用のADC(Audio Digital Converter)として広く普及しており、CDDVDのマスタリング工程、楽器のエフェクターなどでも活躍している。また計測分野では、高精度な温度測定や歪み測定、振動測定などに利用される。近年ではIoTデバイスやウェアラブル機器でも高精度かつ低消費電力のアナログフロントエンドが求められ、この方式のメリットが評価されている。高サンプリングを活かして複数チャネルを同時に扱うシステムにも適しており、アプリケーションの幅がますます広がっている。

課題と技術的挑戦

一方で、デルタシグマ型A-D変換器の設計には課題も存在する。高いサンプリング周波数を実現するために、アナログループフィルタやコンパレータなどの周辺回路に高速応答が求められ、消費電力が増大する恐れがある。また、オーバーサンプリングによって処理対象となるデータ量が膨大になるため、デジタルフィルタの演算負荷が大きくなる点にも注意が必要である。さらに、量子化ビット数を極端に下げた場合は、回路のばらつきやノイズ源の抑制が一層重要となり、最適な回路トポロジーと製造プロセスの選択が精度を左右する。これらを総合的にバランスさせることが、デルタシグマ方式の性能を引き出す鍵となる。