スキャンテスト|回路内部を直接制御・観測し故障を検出する手法

スキャンテスト

スキャンテストは、集積回路やプリント基板などのデジタル回路に対して効率的かつ高精度な検証を行う設計手法である。製造後に故障を検知するだけでなく、開発段階からテスト容易化を考慮して回路を組み立てることで、試作回数の削減や量産体制の確立が容易になると期待されている。具体的には、回路内部にテスト用の回路ブロックを組み込み、外部からテストベクトルを与えることによって部品単位で論理動作を確認できる仕組みが特徴である。故障要因を早期に特定し、最適な修正を施すことで歩留まりを高められるため、半導体業界では広く採用されている。本稿では、スキャンテストの基本原理やメリット、実装に伴う課題などを概説し、その技術的な意義を探っていく。

概要

スキャンテストを導入する際には、通常の回路にテスト回路を追加して「スキャンフリップフロップ」と呼ばれる特殊な順序回路を搭載することが多い。これらをシフトレジスタのように連結し、外部からシリアルにデータを注入・取得することで、回路内部の信号状態を直接観測できるようになる。さらに、テスト用の制御信号によって通常動作モードとテストモードを切り替えるため、日常的なアプリケーションのパフォーマンスを損ねることなく、必要に応じて詳細な故障解析を実施できるという利点がある。

仕組み

スキャンテストでは、回路を論理ブロック単位で分割し、それぞれのフリップフロップをテストシフトチェーンに組み込む。テストベクトルを外部からシリアル入力し、目標となる内部状態を設定してから各組み合わせ回路を通過させ、結果を再度フリップフロップに格納してシリアル出力するという流れである。通常動作時にはフリップフロップがデータパスとして機能するが、テストモードではシフトレジスタとして動作するため、回路の深部を直接チェックできる点が特徴となっている。こうした仕組みにより、多数のピンを持たない小型デバイスでも包括的なテストが実施されている。

利点

スキャンテストの最大のメリットは、テストカバレッジを大幅に向上させつつ、開発コストの削減や故障解析の迅速化を図れることである。従来の外部ピンを介した単純なテスト手法では、複雑化する回路内部のあらゆる故障要素を検知するのは困難であった。しかし、スキャンチェーンを用いることで内部の各ビットを直接制御・観測できるようになり、ソフトエラーや微細な配線不良などの多様な問題を高精度に検出できる。この結果、設計初期段階から問題箇所を把握しやすくなり、改修やリスピンのリスク低減にも寄与している。

実装プロセス

スキャンテストの導入には、設計段階からテスト回路を組み込むDesign for Test(DfT)の思想が欠かせない。まずは回路を論理合成する過程で、フリップフロップをスキャン対応品へ自動置換し、テスト制御回路やシフトパスを追加設定する。さらに、テストベクトル生成ソフトウェアを用いて、ターゲットとする故障モデルに対応したテストパターンを作り出す。出来上がった設計データは実機試作と並行して、シミュレーションや静的タイミング解析を行いながら最適化を進める。最終的にチップが完成した後は、テスターを用いた量産時の自動検査においてスキャンチェーンを活用し、歩留まり向上や不良品率の監視を継続的に実施している。

課題と対策

実装コストの増大や回路規模の肥大化は、スキャンテストを導入する際によく取り沙汰される課題となっている。スキャンフリップフロップは通常のフリップフロップよりもトランジスタ数が増えるため、デザインルールが厳格な先端プロセスではレイアウト設計の自由度に影響を及ぼす場合がある。さらに、シリアル入力を用いたテスト時間が長くなり、量産性にも影響が及ぶ懸念がある。これらの対策として、複数のスキャンチェーンを並列動作させたり、パワー消費の最適化アルゴリズムを導入するなど、実用上の工夫が行われている。また、高速・大容量のテストデータを扱うための新しい通信規格や、ソフトウェア面でのアルゴリズム改善が進められている。

応用と今後の可能性

スキャンテストは大規模集積回路(LSI)やシステムオンチップ(SoC)だけでなく、FPGAなどの再構成可能デバイスや高密度のプリント基板にも適用が広がりつつある。IoT機器や自動車の電子制御ユニットなど、故障が許されない領域では早期の故障検知と原因解析がさらに重要になるため、スキャンチェーンの充実は欠かせない要素となっている。セキュリティ関連の領域でも、製造過程での改ざん検出や認証機能強化の一端を担う可能性が期待されており、回路のテスト技術がデバイス全般の品質や安全性を左右する時代になりつつある。ますます複雑化する回路設計に対応するため、スキャンテスト技術の高度化や自動化は今後も加速していくとみられている。

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