シールド(電気)|電磁ノイズ遮蔽で品質・信頼性向上

シールド(電気)

シールド(電気)とは、導体や磁性材料、導電性コーティングなどを用いて電界・磁界・電磁波の侵入や放射を抑える技術である。EMI/EMCの観点では、装置の放射を抑制(エミッション)し、外来ノイズへの耐性(イミュニティ)を高めるために用いられる。絶縁は電流を遮断する概念であるのに対し、シールドは電磁界そのものの結合経路を制御する点に本質的な違いがある。代表例は金属筐体(ファラデーケージ)、ケーブルの編組・箔シールド、プリント基板上のシールド缶やグランド構造である。

基本原理

導体シールドは表面電荷の再配分により内部の静電界を打ち消し、高周波では反射損失と吸収損失により電磁波を減衰させる。磁界については周波数依存性が強く、低周波では高透磁率かつ厚みのある材料が磁束をバイパスして減衰させる。スロットや貫通部は等価的にアンテナ/開口となり、漏れの主要因となるため最小化・短絡化が要件となる。

スキン深さ

高周波では電流は表皮に集中し、減衰は厚みとともに増える。スキン深さはおおよそ δ=√(2/(ωμσ)) で与えられ、周波数fが高いほど、透磁率μ・導電率σが大きいほど小さくなる。よって高周波シールドは「十分な厚み」と「連続導通」が設計鍵である。

シールド効果の評価

シールド効果(SE)は通常dBで表し、SE=20log(E1/E2) や 20log(H1/H2) が使われる(電力比なら10log)。理論的には SE≒反射損R+吸収損A−多重反射補正B で見積もる。実務では周波数掃引での放射・伝導測定や、局所的な近傍界プロービングでボトルネックを特定する。

開口と縫い目の影響

開口は波長λに対して十分小さくする(目安はλ/20以下)。筐体継ぎ目は高周波電流の主経路であり、長い間隙はスロットアンテナ化する。等電位化した短い多点接触と、均一な圧接が望ましい。

材料と構造

  • 導体系:Cu、Al、SnやNiめっき鋼板、導電性塗装、導電布、銅箔テープなど。高周波電界・平面波に有効。
  • 磁性系:μ-metal、パーマロイ等の高透磁率材。低周波磁界(数kHz以下)に有効。
  • シール部材:EMIガスケット、フィンガーストック、導電性フォームで継ぎ目導通を確保。
  • ベント:ハニカムパネルで通風とシールドを両立。

複合化

1枚で全帯域を賄うのは難しい。導電性外皮+磁性層+内側吸収材の多層化で広帯域性能を狙う。

周波数別の要点

高周波(MHz〜GHz)ではシーム・開口・端末の連続性が支配的で、薄い金属でも効果が出やすい。一方、低周波磁界(電源50/60Hzや数kHz)には高透磁率の厚板や箱形状が必要になる。目的周波数を明確化して材料と厚み、構造を選ぶ。

吸収材の使いどころ

筐体内の共振やケーブル近傍の定在波には、フェライトタイルや電波吸収体を併用するとピーク抑制に有効である。

筐体設計の実務ポイント

  • 連続導通:塗装絶縁を剥がす当接部設計、表面処理の選定、均一な締結。
  • 継ぎ目処理:EMIガスケットやフィンガーストックで周方向連続接触を確保。
  • 開口管理:コネクタ・表示窓・冷却孔は最小化し、ハニカムや導電メッシュを併用。
  • ボンディング/グラウンディング:低インピーダンス経路を短く太く、広帯域での等電位化を図る。

接触抵抗

微小酸化膜や表面粗さは高周波インピーダンスを増加させる。めっきや表面処理で安定導通を維持する。

ケーブルシールドと端末

編組(braid)は機械強度と中高周波性能に優れ、箔(foil)は高カバレッジで高周波に有効。ドレインワイヤは施工性を高める。端末は360°クランプで短く広く接地し、ピッグテールは極力避ける。両端接地は高周波の戻り経路を確保でき、片端接地は低周波の不要循環電流を抑えられるなど、対象ノイズと系のアース構成に応じて選定する。

コネクタ対策

金属シェル一体のコネクタ、背面の導電ガスケット、360°圧着クランプでシールド連続性を延伸する。

プリント基板(PCB)と内部シールド

広いグランドプレーン、帰路の直下配置、ビアフェンスによる漏洩抑制、ポート周りのガードで結合を減らす。高感度回路や高周波ICには金属シールド缶を局所配置し、缶とGNDの低インピーダンス接続を高密度ビアで確保する。

スプリットGNDの注意

不用意なGND分割はすき間を作り、ループと開口を増大させる。帰路一貫性を優先する。

測定と規格

放射はCISPR/IEC/JIS(例:IEC 61000/JIS C 61000系列)への適合が目標となる。評価にはTEM/GTEMセル、電波暗室、リバブチャンバ、近傍界プローブが用いられる。筐体SEは送受信アンテナを筐体の前後に配置して透過比を測る方法が実務的である。

ESD/雷サージとの関係

ESDは急峻な立ち上がりを持つため、シールドの連続性と低インダクタンス接地が重要である。筐体とI/Oの適切な結合で放電電流の短経路化を図る。

故障モードとメンテナンス

  • 腐食・摩耗:シーム部のめっき劣化でSE低下。
  • 組立ばらつき:ガスケット圧縮不足や塗膜噛み込み。
  • 改造開口:後付け穴開け・長いスリットが漏洩源に。
  • 接地断:ボンディングストラップの緩みや断線。

量産での再現性

締結トルク、表面処理、公差、組立手順を標準化し、導通点の検査項目化でSEのばらつきを抑える。

主な用途

医療(MRI室のRFシールド)、車載(ECU・ハーネス)、通信(基地局筐体と導波路窓)、産業機器(インバータ周辺)、計測(低雑音計測箱)など、多様な分野でシールド(電気)は製品性能と適合性の根幹を支える。設計段階から筐体・ケーブル・PCBの三層で対策を整合させ、目的周波数と試験規格に合致した材料・構造・端末方式を選ぶことで、コストと信頼性の最適点を得られる。