ウェアラブル
ウェアラブルとは、人体に装着したままデータ取得・処理・通信を行う小型電子機器群の総称である。時計型、眼鏡型、指輪型、貼付パッチ、衣服一体型など形態は多様で、加速度・心拍・筋電・皮膚温・位置などの連続計測を低消費電力で実行し、スマホやクラウドと連携して可視化・アラート・最適化に資する。医療・ヘルスケア、製造現場の安全管理・作業支援、スポーツ、介護、防災といった領域で利用が進む。
定義と分類
ウェアラブルは「装着継続」を前提とする点で携帯機器と異なる。用途別に、①健康モニタ(心拍、睡眠、活動量)、②医療グレード計測(ECG、CGM等)、③産業支援(作業手順提示、位置・転倒検知)、④拡張現実提示(ARグラス)に大別される。要求精度と連続稼働時間が設計の主制約となる。
主要用途:医療・ヘルスケア
心拍変動、SpO2、体温、呼吸、姿勢、睡眠段階などを測定し、疾患早期兆候の把握や生活リズム改善に役立つ。医療用途では臨床試験に耐える再現性、校正手順、データ完全性、トレーサビリティが重要である。
主要用途:産業・製造現場
現場ではウェアラブルによりハンズフリーの作業指示、トルク順序の誤作業防止、UWBによる人・モノの屋内測位、熱ストレスや転倒の早期検知が可能となる。遠隔支援で専門家が映像・音声を通じて指示し、保全リードタイム短縮と教育効率向上が得られる。
ハードウェア構成
基本構成はセンサ群、低雑音アナログ前段(TIA、低歪アンプ、ADC)、MCU/SoC、無線(BLE、Wi-Fi、UWB)、電源(PMIC+Li-ion)、筐体・電極である。小型化と熱設計、防水・防汗(IP67/68)、落下耐性、長期ドリフト低減を両立させる。
センサと計測原理
PPGは光量変化から脈波を推定し、ECGは電極電位差で心電を取得する。IMUは歩容・姿勢・転倒検知に有効で、圧力・温度・湿度・ガスは環境負荷を評価する。装着圧・汗・動作に起因するアーチファクト除去が精度の鍵である。
通信方式と連携
消費電力あたりの効率でBLEが主流である。大量データや映像はWi-Fi経由のゲートウェイで集約し、屋内測位にはUWBを併用する。NFC/QRでペアリングを簡素化し、切断時の再接続戦略とデータ再送ロジックを設計に組み込む。
省電力・電源設計
平均電流を数百μA〜数mAに抑えるため、スキャン間隔、サンプリング比率、イベント駆動、DVS、バースト送信を最適化する。充電は磁気コネクタやQiを用い、急速充電時はセル温度上昇と劣化を抑える制御が必要である。
ソフトウェアとアルゴリズム
RTOS上でセンサ駆動・前処理(帯域通過、移動平均、外れ値除去)・特徴抽出・推定をパイプライン化する。心拍・呼吸・睡眠・エネルギー消費の推定はセンサフュージョンを用い、個体差適応やオンライン学習で汎化性能を高める。FOTAで安全に更新する。
装着性と人間工学
軽量化、通気性、皮膚刺激低減、圧接力の安定化が継続装着の前提である。電極はAg/AgClや導電ポリマーなどを用い、汗・皮脂・化粧品への耐性と洗浄性を設計段階で評価する。
安全性・規格・認証
医療機器に該当する場合はISO 13485、ISO 14971、IEC 60601-1/-1-2、IEC 62366への適合が必要である。一般用途でも電気安全、EMC、無線認証(TELEC等)と個人情報保護、同意管理の実装が求められる。
セキュリティとデータ管理
端末内暗号化、セキュアブート、鍵保護、アプリ署名検証を実装し、通信はLE Secure ConnectionsやTLSで保護する。データ最小化、匿名化、アクセス制御、改ざん検出、監査ログにより信頼性を担保する。
設計・検証プロセス
要求定義→試作→ベンチ試験→フィールド試験→量産の各段で、ばらつき・温湿度・運動アーチファクト・汗・腐食環境での再現性を検証する。故障注入や電源瞬断、通信遮断に対するロバスト性試験を組み込む。
KPIと評価指標
- 計測精度:基準機器に対する一致性、再現性、ドリフト。
- 稼働性:装着遵守率、連続稼働時間、MTBF。
- UX:装着快適性、視認性、アラートの妥当性。
- セキュリティ:脅威モデルに対するリスク低減度。
実装上の課題と対策
誤装着・緩み・位置ずれは最も一般的な誤差要因である。装着検知と自己診断、動的しきい値、N-of-M確定、ヒステリシスやデボウンスで誤検出を抑える。ログとフリーズフレームを保存し、遠隔診断に備える。これらを統合することでウェアラブルは人と機械の界面を拡張し、現場の生産性と安全性を高める。