せん断
せん断とは、物体内部に生じる面内の相対すべりを特徴とする変形・応力状態である。接線方向に力が作用すると、微小要素は平行四辺形状に変形し、これに対応してせん断応力τとせん断ひずみγが定義される。金属材料、樹脂、複合材、さらには流体においてもせん断は支配的な力学現象であり、はり・薄板の設計、ボルトやリベットの接合設計、打抜きなどの塑性加工、流体の粘性抵抗評価に不可欠である。
定義と基本概念
せん断は、面に垂直な力が正規応力を生むのに対し、面に接線方向の力が内部に発生させる応力である。単位面積当たりの接線力をせん断応力τ、対向面の相対角変化をせん断ひずみγとし、微小変形範囲では線形関係τ=Gγが成り立つ。ここでGはせん断弾性係数で、等方弾性体ではG=E/{2(1+ν)}で与えられる(E: ヤング率, ν: ポアソン比)。
せん断応力・せん断ひずみの関係
弾性域ではフックの法則に従い、τ=Gγとなる。塑性域では降伏条件(例: Trescaやvon Mises)に基づき、せん断支配の流動が生じる。延性材料は大ひずみ下でせん断帯を形成し、脆性材料は斜め割裂を示すことがある。温度やひずみ速度が大きい場合、粘塑性挙動が支配的となり、設計では許容応力度法や限界状態設計で安全側に評価する。
主せん断応力と応力解析
二次元応力状態(σx, σy, τxy)では、モールの円を用いて最大主せん断応力τmax=(σ1−σ3)/2が求まる。曲げとせん断が同時に作用する部材は、接合部や切欠き周辺で応力集中を起こしやすく、重ね合わせや最大せん断応力説で評価して危険断面を同定する。
はり断面のせん断応力分布
せん断力Vを受けるはりの断面内せん断応力は、τ=VQ/(Ib)で与えられる(Q: 当該位置から外縁までの一次モーメント, I: 断面二次モーメント, b: 当該位置の板幅)。長方形断面では中央が最大で外縁がゼロ、I形鋼ではウェブに集中する。ウェブ厚が薄いと、せん断座屈やせん断流の偏在に注意が必要である。
Q/Ibの物理的意味
Q/Iは「面積の重心からの偏り度合い」を表し、bで割ることで局所的な平均せん断応力が得られる。段付きや孔あき断面ではQとbが急変し、局所的なせん断ピークが生じるため、補強板やフィレットで応力再配分を図る。
接合部のせん断設計
- 単純せん断: せん断面が1面の重ね継手。許容せん断応力以下でボルト径と本数を決める。
- 二重せん断: せん断面が2面となり、同一荷重で応力半減。薄板の重ね継手で有効。
- リベット・ボルト・溶接: フィレット溶接は脚長と有効のど厚からせん断耐力を算定。孔縁圧縮(ベアリング)や縁端距離による破壊モードも併せて検討する。
薄板・ウェブのせん断座屈
板厚tが薄いパネルは、面内せん断により弾性座屈を起こす。臨界せん断応力はおおよそτcr=k·π²·E/{12(1−ν²)}·(t/b)²で表され、辺長bや境界条件を反映する係数kに依存する。補剛リブの追加やビード成形により座屈耐力を高め、座屈後の張力場形成を考慮した有効幅設計を採る。
材料のせん断強さと破壊様式
延性金属は最大せん断面に沿う剪断型破壊を示し、鋳鉄やセラミックスは引張割裂で破断する傾向が強い。引張強さと比較してせん断強さは概ね0.6〜0.8倍程度になることが多いが、材質・組織・加工硬化に左右される。疲労下では微小き裂が最大せん断面から進展する場合があり、繰返しせん断の評価にS−N曲線やΔτ評価を用いる。
塑性加工と切断(せん断加工)
打抜き・せん断加工では、パンチとダイ間クリアランス(c)が切断面品質と荷重に影響する。cは板厚tに対して数%が一般的で、過小だとバリ低減と引換えに荷重増大・工具摩耗、過大だとだれ・バリが増える。高強度鋼板では予備せん断や微少R付与で割れ起点を制御する。
流体におけるせん断と粘性
ニュートン流体では、壁面近傍のせん断応力はτ=μ(du/dy)で与えられる(μ: 粘性係数)。配管やダクトの圧力損失、境界層発達、混相流のスリップ挙動など、粘性に起因するせん断はエネルギー損失と発熱の主要因である。非ニュートン流体では粘度がせん断速度に依存し、シアシニングやシアシックニングが現れる。
測定・評価方法
ねじり試験からGを同定し、平行板治具やVノッチ付試験片で純せん断応力を付与する。全視野ひずみ計測(DIC)はせん断帯の局在を可視化し、弾塑性解析(FEA)と併用して降伏域・座屈後挙動の同定精度を高める。接合部は面圧・孔縁距離・クリアランスを含めた系として評価する。
設計上の留意点
- 複合荷重: 曲げ・軸力・ねじりとせん断の相互作用を考慮し、許容相当応力(例: von Mises)で評価する。
- 応力集中: 段差・孔・キー溝での局所せん断ピークに対し、フィレットや面取りで緩和する。
- 安全率・疲労: 静的強度だけでなく、繰返しせん断と摩擦・摩耗による劣化を見込み、余寿命評価を行う。
- 温度・環境: 高温軟化、低温脆性、腐食環境でのせん断耐力低下を補正する。